熊澤 寿

1971年生まれ。1994年3月東京大学工学部航空宇宙工学科卒業。2000年 3月東京大学大学院工学研究科博士後期課程修了。同年、航空宇宙技術研究所(現JAXA)入所。2006年4月より2007年3月まで米国テキサスA&M大学客員研究員。2015年から現職。

他分野との共同研究で新しいチャレンジを

― 二軸疲労試験機を使った実験の利点は何ですか。

一般的な構造試験や材料試験では、一方向だけの単軸試験が行われますが、二方向から力をかけた場合の二軸疲労試験機の実験は、これまでに蓄積されたデータが少ない分、非常に独特で面白いデータが出てきます。特に、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)のように繊維の方向で特性が変わるような材料などの新しい材料では、単軸の試験機からは分からない、意外な結果が出てくることもあります。新しい材料を実験して得られるデータは本当に面白く、そのデータが論文等に引用されることはやりがいの一つです。

― JAXAの二軸疲労試験機には、どのような特長がありますか。

JAXAの持つ二軸疲労試験機では、単なる引っ張りや圧縮だけでなく、加熱や冷却した環境での試験ができます。加熱の場合は約2,000℃以上、冷却は20Kケルビン(マイナス250℃)程度まで加熱・冷却が可能です。こうした機能を活用して材料の極限を見極めるなど、さまざまな試験目的で利用できる点が特長といえます。例えば、極低温になるロケットなどに使われる液体水素タンクに使用する材料の特性を調べる実験なども行えます。幅広い試験環境に対応する技術は、世界と見比べて進んでいます。

― 冷却装置は完成して間もない装置ですね。

完成は、2014年度末です。冷却するために試験片の周囲を真空にしなければならないのですが、試験のしやすさも考慮していくと、単軸の試験機のようにまるごと真空環境にはできないので、十字型の試験片だけを真空に入れるにはどうしたらいいか、最後まで悩みました。また、極低温環境槽を一緒に開発したメーカーは、冷凍機などでは実績があるのですが、二軸疲労試験機のような負荷試験とはまったく縁のない、いわば異業種の会社でした。こうしたメーカーとの橋渡し作業も行わなければならず、お互いの認識のすり合わせなどにも苦労しましたが、その分、私にとっても勉強になりました。

― 現在の業務について教えてください。

現在の業務は、大きく分けて研究と設備管理に分けられますが、設備管理においては、主に、二軸疲労試験機やその付属装置のメンテナンスや校正作業など、機器が正しく動くように管理することです。実験が行われる場合には、実験の目的に応じて試験片の形状決定や発注、ひずみゲージを使った計測の準備なども行います。また、誰でも設備を運用できるように、運用マニュアルの作成も進めています。研究に関しては、試験片製作や測定装置の設定などの試験準備、試験による実験データの取得、試験データを解析、学会での口頭発表や論文作成などを行っています。

― これまでで印象に残っている実験はありますか。

学生時代に博士論文を作成する過程で、燃料タンクに二軸引っ張り荷重をかけた際、どのくらい漏洩があるのかを知るには単軸疲労試験機だけでは不十分だったので、JAXA(当時NAL)の二軸疲労試験機を使って実験しました。自分で計算して事前に解析結果を準備してから実験に取りかかったのですが、計算通りに漏洩するだろうかという気持ちもあり、解析結果と計測結果が良く一致していた時は驚きがありました。この実験をきっかけに、二軸の試験機は常に新しい挑戦を求められる、刺激的な実験装置だと感じました。
あとは、やはり冷却装置です。前例がないこともあり、十字型の試験片を真空状態にするアイデアが出る最後の最後まで苦労しました。考えた仕組みがうまく行ったときは、嬉しくてテンションが上がりましたね。

― 航空機や宇宙機以外の分野では、どのような分野で活用できるでしょうか。

プレス成形での塑性点計測は、自動車など他の工業製品でも役立つデータを得ることができると思います。自動車分野では、燃料電池車などに使用する水素タンクの設計にも役立てられると期待しています。

― 今後の目標や抱負を教えてください。

二軸疲労試験機による複合材の特性データは、まだまだ十分に揃っていません。3Dプリンターで製造した部品のような新しい材料の特性を調べる際にも、二軸疲労試験機の活躍する場が増えるはずです。また、超音速旅客機や再使用型ロケットなどの開発プロジェクトが進められたときに、実環境を模擬した試験に二軸疲労試験機を活用し、プロジェクトの効率化に貢献できたらと思っています。

2軸疲労試験機の前で

このインタビューは、JAXA航空部門広報誌「FLIGHT PATH No.11」からの転載です。
所属・肩書などは取材当時のものです。

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