藤原 健

1999年、東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程修了。同年、航空宇宙技術研究所(NAL)入所。2007~2008年、米国スタンフォード大学にて客員研究員を務めた。

装備品の認証技術で日本企業を支援

― これまでに携わった業務を教えてください。

私はガンダム世代で、子どもの頃から宇宙工学かロボット工学をやりたいと考えていました。大学では、航空宇宙工学科で人工衛星の運動や惑星探査機の軌道などを学び、博士論文では人工衛星の状態推定について書きました。JAXA(当時はNAL)に入ってからは、航空機の航法、つまり「今、どこを飛んでいるのか」を知る技術の研究を行っています。
また、併任という形で小型超音速実験機(NEXST-1)実験にも参加して、実験機の飛行データからどのように飛んだのかを解析しました。オーストラリアのウーメラ実験場で行った実験が、一番印象に残っていますね。その後、DREAMSプロジェクトに関わりました。現在はDREAMSで生み出した技術を社会に広げていくための活動を行っています。私たちが目指しているのは、世界共通のルールづくりで、今はアメリカの民間非営利団体である航空無線技術委員会(RTCA)に提案を行っています。
次世代航空イノベーションハブとして、装備品認証に関する活動にも参画しています。

― 装備品認証とはどのような活動なのでしょうか。

航空機に搭載される装備品も、国土交通省やアメリカ連邦航空局(FAA)などから認証を取らなければなりません。現在、JAXAが民間を支援して認証を取ろうとしている装備品は、衛星航法と慣性航法を組み合わせた航法装置です。この航法装置に搭載されているソフトウェアのアルゴリズムは、もともとJAXAが無人の実験機向けに開発したものです。
この認証を受けようとしている装備品には、まだ認証のためのルールがないのですが、実は先ほど説明したJAXAも参画してRTCAで作ろうとしているルールが、まさにこの装備品の認証に関わるものです。自分たちでルールを作りながら製品も作ろうとしているということになります。こうした動きは海外では珍しいことではなく、欧米の企業はルールづくりにも参画しています。日本もルールづくりに参画できるようになりつつあるということです。
ただし、日本の装備品メーカーは海外メーカーに比べて規模が小さく、その分発言力も小さくなってしまいます。そこをJAXAが後押しして、日本が不利にならないようなルールにしていかなければなりません。

― 海外との折衝ではいろいろな苦労があると思います。

最大の苦労は言葉ですね。認証についてはこれからなのですが、“ソフトウェアの信頼性を保証すること”が一番高いハードルだと思っています。これまでにも日本企業がトライしたことがありましたが、ほとんどがうまくいきませんでした。ソフトウェアの信頼性保証は、アメリカのルールに従って行うのですが、こうすれば良いという明確なチェックリストのようなものは存在しません。基準となるルールの記述も非常に抽象的で、認証を受けた実績を多く持つ欧米の企業は次々認証を得ることができますが、実績のほとんどない日本企業が認証を得ることは困難なのです。今回の装備品については、まだルールが存在しない製品であり、なおかつJAXAが技術を持っている航法装置なので、海外企業と同じスタートラインに立てると考えています。

― 航法装置研究の面白さ、やりがいはどこにありますか。

例えば、慣性航法では加速度や角速度など間接的な情報を集めることで、位置や姿勢が分かるところが面白いです。しかも工夫すればするほどより精度良く知ることができるので、工夫しがいがあるところですね。
現在の航法は、通常の飛行技術としては十分に成熟した技術で、新しい技術が出にくい分野ですが、GPSによる衛星航法が登場したように、新しい技術によって世界が大きく変化する可能性もあります。

― 今後、取り組みたい研究はありますか。

やはり航法装置の性能向上、使い勝手の向上の研究は続けていきたいですね。加えて利用者のニーズに応えられるような、さまざまな条件に対応した航法装置も開発したいと思っています。

GPS実験用レドーム前にて

このインタビューは、JAXA航空部門広報誌「FLIGHT PATH No.15」からの転載です。
所属・肩書などは取材当時のものです。

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