湯原 達規

次世代航空イノベーションハブ 航空機システム研究チーム 研究開発員
2014年4月入社

1985年生まれ。2009年3月、東京大学工学部航空宇宙工学科卒業。2014年3月、東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。2014年、宇宙航空研究開発機構入社。大学での研究テーマは水素燃料超音速旅客機の概念設計に関する研究。入社後、主翼空力設計に関する研究に従事。

航空分野には研究の余地がたくさんあって面白さを感じています

― JAXA航空技術部門を目指したきっかけを教えてください。

子どもの頃からレーシングカーや航空機など流線型のものが好きで、大学では航空宇宙工学を専攻し、環境に負荷をかけない未来の航空機を研究しようと空力の研究室を選びました。主な研究のテーマとして「衝撃波(ソニックブーム)を出さない水素燃料超音速旅客機の概念設計」を選択し、修士1年生の時にNASAの設計コンテストに投稿して1位に入賞することができ、水素燃料超音速旅客機の研究の面白さを感じました。また学部4年生から博士3年生までの間、技術研修生としてJAXAに来る機会が頻繁にありました。研究者の皆さんが超音速旅客機※1の研究について生き生きと話している様子が印象的で、さらに超音速旅客機の世界に関心が高くなり、私もいつかここで世界の潮流から求められる環境性を考えた新しい航空機を研究したいと思いました。

― 現在の研究内容について教えてください。

航空機システム研究チームでは、遷音速機の翼端形状(ウィングレット)を担当し、空気抵抗を下げるための設計法や設計の評価手法を研究しています。大学との共同研究の取りまとめ役として、いくつかの概念形状を検討しています。その中で、一般的な上を向いたものでなく、下を向いたウィングレットという発想が生まれ、分析を進めた結果、空力的な面だけでなく、構造的な面でもメリットがあることが分かりました。空力と構造の両立を目指す航空機のシステムを最適化するようなアイデアを創出できたことに喜びを感じました。
また、環境に優しい超音速旅客機の主翼形状の空力設計も担当しています。離着陸時の空力性能を向上させると同時に巡航時の空気抵抗や超音速で飛ぶことで必然的に発生するソニックブームをいかに小さくするかなど、超音速機の主翼形状を設計するための手法を研究しています。自分の研究が環境性や空港周辺の騒音問題などに役立つ技術として、社会的にどう評価されるかを意識するようにしています。
他にも、空力設計の基盤技術に関する研究に挑戦しています。揚力発生の現象を説明する際に流線曲率という概念が使われることがありますが、流線曲率を操作しながら形状を設計する仕組みがあれば、より良い空力性能を得られるのではないかと考えました。そこで、JAXA航空技術部門内の競争的萌芽研究課題として、流線曲率に基づく空力設計という先例があまりないテーマを提案し、採択されました。この研究では、航空分野を含むさまざまな分野から流線曲率を使う空力設計法につながるヒントを得て、曲率に基づく形状生成法という新しい技術を提案しました。競争的萌芽研究としては一区切りしていますが、エコウィング技術※2や超音速機の研究へ活かすために研究を続けています。その技術を使った空力設計の手法は現在特許出願をしており、世の中の航空機開発だけでなく、さまざまな分野においても活用されることを期待しています。

― 将来の夢を教えてください。

いずれは、「自分は主翼空力設計の専門家」と自信をもって言えるようになりたいです。ウィングレットに関しては、良いものができればすぐにでも航空機に適用され、現在の航空機開発に役立てられる可能性があるでしょう。一方、超音速旅客機の主翼形状や流線曲率の空力設計に関しては、20年、30年先の遠い将来を見据えた研究です。コツコツと積み重ねていく研究であり、すぐに大きな成果を出すことはできません。日々の研究をまとめて論文発表し、第三者の評価を聞いたり、共同研究のパートナーの自分とは異なる考えを知ることによって、自分自身の研究を見直しながら、少しずつ成果を出していこうと思っています。このような研究の価値を高めるプロセスをイメージしながら、超音速旅客機の実現に向けて研究を続けたいです。

― JAXA航空部門を目指す人たちにメッセージをお願いします。

たくさんの教科書や文献を読み込んで、多くの知識を得ておくことが大切です。研究が行き詰まった時、基本となる知識があればあるほど、何が足りないのかを気付くことができます。航空分野は学術的にはすでに確立されていると思われがちですが、基本に立ち返って研究を見直すたびに、多くの知識があってもまだ研究する余地がたくさんあるのかと気付かされ、改めて航空分野の研究の面白さを感じます。

共同研究で製作した主翼の風洞模型を手に

このインタビューは、JAXA航空部門広報誌「FLIGHT PATH No.17」からの転載です。
所属・肩書などは取材当時のものです。

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