アンドレエバ森アドリアナ

1982年ブルガリア生まれ。2007年3月、東京大学工学部航空宇宙工学科卒業。2009年3月、東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。2012年9月、東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。2013年、宇宙航空研究開発機構入社。大学での研究テーマは燃料消費削減のための最適到着順に関する研究。入社後も、最適な運航に関する研究を行っている。

スマートフライトで空の交通の最適化を目指す

― 現在の研究「スマートフライト」について教えてください。

一言で言うと、これからさらに増えることが予想される空の交通量の課題解決に向け、環境負荷の少ない運航を実現するためのパイロットや管制官の判断を支援する運航技術の研究開発です。空の交通量は15年ごとにおよそ倍増していくことが予想され、空港・空域の容量不足、環境負荷の増大、航空機事故の増加といった問題が出てきています。私たちは、これらの問題に対して地上と機上両方の視点からアプローチすることが課題解決につながるのではないか、という考え方でこの研究に取り組んでいます。私は、交通流管理の最適化に関する研究を担当しています。
この研究のコンセプトは「時間管理」です。簡単に言うと、現在は飛行経路を変更することで到着時間を管理していますが、今後は飛行経路は変えずに速度を調整することで時間管理しよう、とするものです。これを「4D運航」と呼んでいます。JAXAは「適応型時間管理」を提案しています。機体性能、天候や航空交通流の状況に応じて時間管理を動的に変更し、容量拡大と燃費低減を両立することが目的です。将来的に4D運航が普及すれば空域が拡大し、結果的には最大4%の低燃費化が可能となるとのシミュレーション結果が出ています。

― なぜ航空の道に進まれたのですか。

両親がエンジニアで、子どもの頃はよくエアショーに連れていってもらったり、家では機械を分解して遊んだりしました。それで数学と理科が得意だったので理数系の高校に進みました。その頃から航空宇宙に興味がありました。そうすると進むべきところが限られてきます。世界的に見ても航空系が強い国というのは、実はあまりないんです。高校卒業後、「行ってみて万が一ダメだったら、また違うところに行けばいい」と割と気軽に日本に来ました。その頃は、まさかそのままずっと日本で仕事をすることになるとは想像もしていませんでしたね。

― 研究をしていて行き詰まったことなどはありますか。

研究をやっていると日々挫折や壁にぶつかることの連続です。自分で何かやってもどうにもならない、自分一人ではもう前に進むことができない、ということがよくあります。そういう時の唯一の解決方法は、誰かと相談することだと思います。自分だけで物事を見ていると、どうしても視野が狭くなってきます。誰かと話すことによって、その場で解決策が出てきたり、話の中で解決のヒントになることが出てきたりします。

― これから取り組みたい研究や将来の夢は何ですか。

さまざまな機体の管制です。これからの時代は、空飛ぶクルマや無人航空機、さらに超音速航空機など、機体の種類が増えてきます。機体によって管制の方法は変えなければなりませんが、先ほどお話ししたスマートフライトの時間管理というコンセプトは、どんな機体にも応用できるのが魅力なので、それを実用化させたいと思っています。

― 最後に、JAXAを目指す方々へメッセージをお願いします。

どんなに研究が好きでも24時間ずっと研究できませんし、長く仕事をすればいいとは限りません。疲れがたまると効率が悪くなり、ミスが生まれることもあります。大事なのはメリハリをつけて働くことです。JAXAはワークライフバランスをとりやすく、仕事の仕方の自由度も高いです。
また、航空技術部門で働くのに、必ずしも航空系の学部を出なければならないということはありません。研究には、さまざまな知識や視点を持つことが大事です。いろいろなバックグラウンドの人が集まって、初めて良いものができると思います。数学でも、物理でも、何でもいいので、他の人とは違う自分の強みを持って、少しでも航空への興味があればJAXAで活躍できると思います。

このインタビューは、JAXA航空部門広報誌「FLIGHT PATH No.24」からの転載です。
所属・肩書などは取材当時のものです。

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