舩引 浩平

1989年、早稲田大学理工学部機械工学科卒業。1991年、東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻修士課程修了、同年、科学技術庁航空宇宙技術研究所(NAL)入所。1998〜1999年、ドイツ航空宇宙センター(DLR)客員研究員。

ヒューマンファクターの研究で事故を減らしたい

― 舩引研究領域主幹が携わっている「人間工学」について教えてください。

狭い意味での人間工学は、人間と機械の関係をスムーズに行う、人間と機械の間にある問題点を解決してゆくということです。システムの中で関係が失敗すると事故が起きます。逆に、うまく関係してゆくことで事故を防ぐことができます。もう少し広い意味の概念では、心理学や生理学、医学、電子工学、飛行力学などさまざまな基盤分野と関わりながら取り組む多様な技術課題と言えると思います。私たちが扱っているのは、このような広い意味での人間工学であり、ヒューマンファクターという呼び方をしています。

― 具体的にはどのような研究でしょうか。

80年前、航空技術と言えばイコール飛行機を作ることでした。ところが、現在の航空技術においては、飛行機を作るということはごく一部であり、航空従事者の訓練、教育、管制、整備や燃料供給、空港の設備、機内サービスなど広く含んでいます。管制官や整備士におけるヒューマンファクターも重要ですが、私たちの研究ではパイロットにターゲットを絞っています。
パイロットのヒューマンファクターは、日々の運航の中でどのように安全性を確保するか、という点だけでなく、パイロットの選抜方法や訓練方法にも関連します。また別の視点から考えると、エラーを起こさないためにはコックピットをどのようなデザインにするか、デザインしたコックピットの安全性をどのように証明するのか、といった点も含まれます。さらに、許認可を行う航空局の視点からは、どのような制度を整備すれば安全性を確保できるのか、などのように、ありとあらゆる場面でヒューマンファクターが関係してきます。
そのすべてを研究することはできないので、その中でJAXAが持つ基盤技術が役立ち、かつ世の中にインパクトのある技術について研究し、課題に対するソリューションを提供しようとしています。

― 研究の成果としては、どのようなものがありますか。

SAVERH は、実用化一歩手前という状況です。私たちの研究開発成果であるDRAPはすでにエアラインで利用されていますし、トンネルインザスカイ(※)FQUROHプロジェクトの飛行試験で使われているほか、民間で測量などに活用されています。また最近では飛行ルートの変更が安全性に及ぼす影響を調べて報告しています。これには、2005年頃に私たちが実施した、先進的な管制システムの研究で生まれたシミュレーション技術を利用しています。

― 研究のやりがいはどこにありますか。

ヒューマンファクターの研究を通じて、航空機の事故、特に人命に関わるような事故を少しでもなくしていきたいという思いは常に抱いていて、それがモチベーションになっています。あとは、この分野には、まだまだ科学になりきっていない、フロンティア的な部分も意外に多いです。
またこの分野で研究をしていると、いろいろな方が見つけてくれた「こんな問題があるけれども、何とかなりませんか」という話を受けます。それが自分にとって課題となり、解決することで実績になり、さらに多くの人に見つけてもらえて、といった好循環になります。
研究室には、かつて日本で飛行した旅客機のマニュアルが何機種分も保管されています。これは私たちの先輩諸氏から受け継いだものですが、それはエアラインなどとの間に築き上げた信頼関係の結果です。そうした信頼関係があることで、現場の声や期待をはじめ、いろいろな情報が集まってくると思っています。それがやりがいにつながっているとも言えるし、やりがいを超えて責任感とか使命感になっているとも言えます。

― 研究の楽しさはどこにあるでしょう。

例えば、同じセクションの研究開発員の実験フライト時間は、累計で400時間を超えています。ヒューマンファクターの研究では、実際にパイロットが何をやっているのかを見たり、どう考えて行動しているのかを聞いたりしなければならないため、研究室内で完結するのではなく、実際に航空機に乗って飛びながらの研究が必要になります。 航空機と密になれる、アイデアを早く実証できるという点では、私たちのセクションは日本中探しても他にないと思います。もちろん安全性の確認は十分行った上ですが、何かアイデアがあれば、いつまでも机の上で転がしておくのではなく、飛行シミュレータの検証を経て飛行実験の評価までのスパンを短くしています。

― 研究マネージャという立場から、どのような人材を求めていますか。

ヒューマンファクターの研究ではパイロットを相手にすることが多いので、やはり元気で明るい人がほしいですね。その上で、体力があってプログラミングの一つもできれば言うことはありません。飛行機が好きなら間違いなく合うと思います。逆に、専攻している分野はあまり関係ありません。先ほども言いましたが、ヒューマンファクター自体がさまざまな研究分野の集合体のようなもので、むしろ航空学科が異分野と言えるかもしれません。大学で専攻していた分野を航空の研究に役立てたい、新しい分野にチャレンジしたいという気持ちを持った方が合っていると思います。

  1. ※:FLIGHT PATH No.14(11ページ)参照

飛行シミュレータ内部にて

2018年2月更新

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