航空技術部門は今・・・

成長し続ける世界の航空機産業

ジェット旅客機の運行機材構成予測

一般社団法人日本航空機開発協会「民間航空機に関する市場予測2013-2032」より

日本では今や当たり前となった旅客機。しかし世界に目を向けると、経済成長著しいアジア・太平洋地域、中東、アフリカで、非常に高い旅客需要の伸び率が予測されています。さらにLCCと呼ばれる格安航空会社の台頭で、より多くの人が気軽に旅客機を利用できるようになり、さらに需要が増えることが期待されます。
このような背景の中、世界の旅客輸送量は今後20年間で約2.6倍、旅客機の新造数も約3万機と予測されています。

アメリカ、ヨーロッパは航空分野を戦略的重点産業と位置付け、また現在カナダ、ブラジルがシェアを占める小型旅客機市場へロシア、中国が参入を狙い積極的に開発を行っています。
日本の航空産業生産高(2011年)は113億ドル、雇用が2.5万人、GDP比では0.3%以下にとどまっています。一般に自動車の部品数万点に対して航空機の部品点数は100万点を超えると言われており、航空産業は日本経済の成長の一翼を担う重要な産業となりえるでしょう。

ますます厳しくなる環境基準

皆さんが乗る旅客機は、ここ数十年ずっと同じ技術で飛んでいると思っていませんか? 確かに、胴体があって、主翼と尾翼があって、エンジンが付いている基本的な形は何十年も変わっていません。実は機体の素材の一部がアルミから炭素繊維強化プラスチック(CFRP)になったり、ジェットエンジンが高バイパス比のターボファンエンジンになったり、主翼の形状が微妙に変わったり、電気で動く箇所が増えたりと、昔に比べるとNOx(窒素酸化物)やCO2の排出量、騒音はだいぶ少なくなっています。
しかし航空機の需要がさらに拡大する中、航空機に求められる環境基準はますます厳しくなっています。

ICAO NOx排出規制

ICAO 騒音規制

このような規制などにより、航空機を運航するエアラインは当然この基準を満たす航空機をメーカーに求めます。
さらに、燃料の価格が高騰している昨今、運航コストを抑えるために燃費の良い航空機を求めています。燃費の向上はCO2排出の削減にも繋がります。航空機を供給するメーカーは、これらエアラインの要求を満たす航空機を製造しなければなりません。
これらの要求を満たす“航空環境技術”は、日本の航空機産業が世界市場で存在価値を高めるための差別化技術の1つになりえるでしょう。

空の旅をより安全快適に

運輸安全委員会報告書(1999~2011)から集計

航空輸送量の増大に対し、今の航空交通管理システムでは航空機を安全に運航できる輸送量に限界があります。今でも非常に混雑した空港では、しばしば航空交通管理の限界から離発着の遅延が生じています。このためICAO(国際民間航空機関)は新技術による運航システム実現のためのビジョン「グローバルATM運用概念」を提示し、これに対応すべくアメリカは「NextGen」、ヨーロッパは「SESAR」、そして日本は国土交通省を中心に「CARATS(キャラッツ)」プログラムを立ち上げるなど世界的な取り組みが始まっています。

また旅客機に乗ったことがある方は経験したことがあると思いますが、シートベルト着用サインが表示され、機体が大きく揺れることがよくあります。このような乱気流等気象が原因で起こる事故は、過去10年間の国内の航空機事故の実に50%を占めています。このような事故を減らす技術は、安全な空の旅にとって大変重要になっています。
これらの“航空安全技術”は、日本の空だけでなく、世界の空の安全に貢献でき、世界の航空市場から求められるキー技術になるでしょう。

1人でも多くの生命を救いたい

2011年3月に発生した東日本大震災では、日本全国から300機以上のヘリコプターが被災地に集結し、懸命な救援活動が行われました。それら航空機の救助体制は以前に比べれば改善されているものの、無線による音声通話やホワイトボードでの情報共有には限界があり、給油の順番や任務の割り当て待ちがあったそうです。首都直下地震ではさらに多くの航空機が集結することが想定されており、航空機を安全に飛行させるためにも、より多くの生命を救うためにも、航空技術とICT技術を組み合わせた情報共有インフラの整備が急務です。さらにそのインフラは、人工衛星や無人航空機から撮影した画像や、夜間飛行を支援する飛行ルートデータや地形データなど救援活動に有用な様々な情報を共有したり、それら情報をヘリコプターや災害対策本部以外に救急車両や救助隊員などでも共有を可能にするなど、いろいろな拡張性が考えられます。
災害はいつどこで起こるかわかりません。世界でも類を見ないこのような災害対応を目的とした航空機運用システムは、日本に限らず世界中で必要とされる技術の1つになるでしょう。

未来の空、航空輸送の技術革新へ

小型超音速旅客機の概念イメージ

航空輸送技術は、「もっと環境にやさしく」「もっと安全に」はもちろんのこと、「もっと速く」「もっと時間と場所を選ばずに」と言った、まだまだ多くの可能性を持っている分野です。
より速い輸送技術は移動時間を短縮します。移動時間が短縮されれば気軽に移動できる範囲が広がるでしょう。垂直/短距離離着陸技術は、日本のような平地が少ない場所や災害現場での移動・輸送手段として航空機の活躍の場を広げます。さらに電気自動車のように石油などの化石燃料を使わずCO2を排出しない地球に優しい飛行機も考えられます。
未来の空で、日本が世界に後れを取らないためには、“航空新分野”へのチャレンジも忘れてはなりません。

新たな空へ 夢をかたちに

日本の航空技術研究の中核機関であるJAXAが、我が国の航空産業の国際競争力強化に貢献するためにできること。それはJAXAが持つ最先端の航空技術・設備を生かし、産業界、学会、大学と連携して、社会のニーズに応える革新技術を産み出し、それを社会に提供していくことです。もっと簡単に言えば“世の中に製品や価値として出る”ことを目指して研究開発していくことです。
そのため、航空市場においてニーズがあり、日本の強みを踏まえ高付加価値技術となりえる“航空環境技術”“航空安全技術”を重点的に研究開発することにしました。さらに未来に向けた“航空新分野”にもチャレンジし続けます。
「新たな空へ 夢をかたちに」、すなわち将来の空に必要な、最先端の航空技術を、社会の役に立つ形で提供することで、世界に羽ばたく日本の航空産業を支えるべく、JAXAは邁進していきます。