より軽くシンプルに -プラモデルみたいに-

こんにちは。構造・複合材技術研究ユニットの小谷政規(こたにまさき)です。このメルマガへの登場は3度目となります。今回も我々のユニットで研究開発に取り組んでいる飛行機の材料や構造についてお話したいと思います。

私は小学生の頃、プラモデル、ラジコン、野球が大好きな少年でした。プラモデルを作り始めると熱中し過ぎるあまり時の経つのも忘れ、接着剤や塗料の溶剤が蒸発して部屋に充満していることに気付かず、部屋に入ってきた両親や祖母から「換気しなさい!」と叱られることもしばしばでした。そんな経験が工学を志す一つのきっかけになったと思っています。

さて、そんな私にとって昔なつかしいプラモデルですが、実は今、飛行機の機体をプラモデルみたいにしてその性能をアップさせようとする研究開発が世界中で活発になっています。ここで言う“プラモデルみたいに”とは、プラスチックベースの炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を機体の材料としてより多くの部位に使用し、部材の一体成形を進め、さらにその組み立てに接着を用いることです。

CFRPは、エポキシ樹脂をはじめとするプラスチックに直径10ミクロン程度の炭素繊維を含ませて強化したもので、これを上手く用いると、製品をより軽く強いものにすることが出来ます。テニスラケットやゴルフクラブのシャフトなどに広く使われているのでご存じの方は多いのではないでしょうか。近年この性能や信頼性がアップしてきたので、これまで主にアルミ合金が使われてきた飛行機の機体にも使われるようになり、最新鋭のボーイング787やエアバスA350XWBは機体全重量(空虚重量)の半分以上がCFRPです。そうです! 新しい飛行機のボディはプラスチックをベースとしているんです! 飛行機のボディが軽くて強いCFRP製になると、機体が軽くなって燃費が良くなる他、機体の定期検査の期間を延ばしてコストを抑えたり、機内の気圧や湿度をこれまでより上げて乗客にとってより快適なものにしたりできます。

CFRPを使って飛行機をより良いものにしようとする人々の意欲はまだまだ留まることを知りません。そのアプローチには、材料の品質そのものをアップさせることの他に、これをより上手く使いこなして効果を上げようとする2つの観点があります。先に述べた“一体成形”と“接着”は、製造技術に関連した後者の観点に当たります。

飛行機の機体は、部材と部材をリベットという金具で接合して組み立てられていて、大型機では一機でこれが100万本以上も使われています。このリベット自身の重量や組み立てにかかるコストは相当大きいので、これを減らせれば機体の軽量化やコスト低減につながります。この方法として、部材を単純形状に留まらず多少複雑なものまで一体で成型して部品点数を減らすこと、さらにその部材の組み立てに接着を用いることが期待されています。シート状の素材を重ねて作られることが多いCFRPですが、成形型や工程を工夫することによってある程度複雑な形状の部材を一体で作ることが可能です。また接着は、接着剤や接着工程および管理の技術の向上によって、適用範囲を広げていけると思います。

多くの人命を預かる飛行機では、十分実績を積んだ確実な技術しか使われません。飛行機を“プラモデルみたいに”するために、実用化を目指して新たな技術に取り組む研究者・技術者が今日も奮闘しています。

将来、一般の人が自家用飛行機のプラモデルをインターネットで購入し、自分で組み立てた飛行機に乗って空を飛ぶなんて時代が来ることを夢見て……。 (小谷政規)