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宇宙航空研究開発機構

機体にできた損傷が自然に治る!? ~自己修復材料~

JAXAメールマガジン第275号(2016年9月16日発行)
小谷政規

こんにちは。構造・複合材技術研究ユニットの小谷政規(こたにまさき)です。今回で4回目の掲載となります。

突然ですが、未来から現代に送り込まれたサイボーグと主人公たちが戦う、という内容の映画をご存じですか? その映画の中で、液体金属でできたサイボーグが銃弾を受けた際、傷ついた部分がみるみるうちに元通りに復元される映像は当時衝撃的でした。今日はそんな自己修復機能をもった材料についてお話したいと思います。

自己修復機能は、地球上に住む多くの動植物に備わっており、我々人間の身体にも無くてはならない大変重要な機能です。我々の皮膚は、傷つくとすぐに血液が流出して固まって傷口を塞ぎ、その後時間をかけて内部組織が再生してほぼ元の状態に治ります。プラスチック製品などを野外に長期間放置すると紫外線による劣化で表面がボロボロになったりしますが、人間の皮膚は絶えず再生し続けてそのようなダメージから回復します。とてもありがたいですね。

飛行機の機体は、飛んでいる時には鳥が衝突したり雹が降ってきたり、また地上にいる時にも運用機材がぶつかったり工具が落とされたりして、使っているうちに様々なダメージを受けることがあります。機体にはこれまで長らくアルミ合金が使われてきましたが、このような金属製の構造がダメージを受けた場合には、車のボディに施されるような板金加工による修理が可能です。しかし、第267号でお話しましたように、近年開発される飛行機には、強くて軽い炭素繊維強化プラスチック(CFRP)がますます使われるようになっていて、この場合には状況が大きく変わります。多くのCFRPは強化材のシートが重ねられてプラスチックで固められたものなので、外部から強い衝撃が加わると、まずこの重ねられたシート間にひびが入ります。これは次第に広がり構造強度をどんどん低下させる原因になるので、検査でこれが見つけられた場合には、その部分周辺をくり抜いてそこに新たな材料がパッチ当てされます。これでひびの拡大による脅威は無くせますが、やはりくり抜いた分の構造強度は低下してしまいます。

そこで、CFRPに我々生物のような自己修復機能をもたせれば、どうでしょうか? 少々のひびが入っても修復されるので、くり抜く必要が無くなり、構造強度の低下を最小限に止めることが出来ます。そんな素晴らしい材料を実現するための研究が世界中で行われています。

CFRPに自己修復機能をもたせるには、そのベースであるプラスチックに我々の身体の血液のような機能 ―ダメージを受けた部分から浸み出して固まる機能― を付与するものを含ませておく必要があります。一つの方法として、硬化前のプラスチック原料とそれを硬化させる機能剤を極小さなカプセルに詰めてプラスチック中に分散させておくことなどが考えられます。しかし、そのようなものを作ること自体がまず難しく、また作れたとしても、そのような硬化していないものをプラスチックに含ませることでCFRPの元々の強度や硬さが低下してしまう問題もあります。これらの課題が全て解決されるか、または全く新しいアイデアによって、自己修復性CFRPが現実のものとなる日がそう遠くない将来に来るかもしれません。

このような生体のもつ優れた機能や形状を模倣して工学や医療の分野などに応用することをバイオミメティクス(生物模倣)といいます。みなさん、身の回りにいる生き物を改めてよく観察してみてください。我々の生活に役立つアイデアが浮かぶかもしれませんよ。


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