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宇宙航空研究開発機構

大家との架空対談?

JAXAメールマガジン第277号(2016年10月20日発行)
吉田憲司

皆さん、こんにちは。航空技術部門の吉田憲司です。私の専門分野は空気力学ですが、研究者にとってその分野の“大家”と言われる方と直接お話することは何事にも勝る喜びであり、推進力になると思います。

最近、日本流体力学会誌で「架空対談」という記事を見つけました。それは流体力学で不滅の無次元数の名前として有名なレイノルズ教授とマッハ教授の夢の対談を通して当時の研究の様子を語っていただき、現在の若い人に流体力学の面白さを知ってもらおうとする企画で大橋秀雄先生が執筆されたものでした。対談の途中で谷一郎先生が飛び入り参加する趣向もあって久しぶりに“初心に戻れる”読み物でした。 実は、私も大学院を出たばかりの頃に、憧れの谷先生と幸運にもお話しさせていただく機会を持つことができました。本日はそのお話を少しさせていただきます。

私は1986年に川崎重工に入社しました。川崎重工は戦前の川崎航空機が母体ですが、当時の名機の一つである「飛燕」の設計者である土井武雄先生が御健在で、技術部門の顧問をされていました。土井先生の東大の後輩に世界的に有名な流体力学の“超”大家でいらっしゃる谷一郎先生がおられ、年に1~2回ほど土井先生を訪問される際に、併せて若手技術者向けの講演を行っていただく企画がありました。
私が学生の時は、谷先生は既に大学を退官され、“生”の講義をお聞きする機会は無いと諦めていましたので、まさかそのようなチャンスが訪れるとは思ってもいませんでした。谷先生の講義は「講義中は良くわかった気になるが、講義後は良くわからない、という“話術に酔わされてしまう”名講義」と恩師から聞いたことがありますが、まさにその通りでした。ただし、この会社での講演では実学として少しでも役立ってほしいという思いから、いつもわかりやすい資料をわざわざ作ってくださったので、それを拝見することで何とか理解を補うことができたように記憶しています。また、谷先生が講演された後は必ず顧問室で土井先生も交えた懇談会がセットされ、幸運にも私の上司が幹事であったことから毎回同席をさせていただき、当時担当していた研究内容などの話題提供や、かねがね個人的に疑問に思っていたこと(例えばジョーンズの低アスペクト比の翼理論など)につきましても、直接先生とお話しをさせていただくことができました。いつも丁寧にご回答をくださり、仕事に関する励ましもいただき、本当に大きな推進力をいただきました。
その後、「せっかくの機会なので質問状をお送りしてはどうか」との上司のアドバイスに従って質問をさせていただきましたところ、お手紙で大変丁寧なご回答をいただくというご親切にも触れることができました。その中には先生が1942~43年頃に考案されたプラントルの揚力線理論の拡張版(後世のワイジンガーの理論と同一)の草稿があり、「飛行実験データで検証してから公表するつもりが、戦争の影響で実現しなかったのが残念」という話までも教えてくださいました。その草稿はとてもきれいにビニール袋に包まれて保存されており、その取扱いの丁寧さは先生の数々の研究の“緻密さ”にも通じていると肌で感じた思いでした。

それから20数年が経ちました。その間、JAXAで一連の超音速実験機プロジェクトに携わり、多くの経験をさせていただきましたが、今もし谷先生にお会いできるなら、「懇談会の時に先生からいただいた“コンコルドを超える空気抵抗低減法”に関する質問への私なりの回答(自然層流翼の適用!)をお伝えすると共に、更に生じた新しい疑問(その層流翼効果を確保するために必要な翼表面平滑度の維持方法にはどのようなものが有効か?)もぶつけてみたい」という思いがあります。もちろん、これは叶いませんが、先生ならどうお考えになるかをいつも想像しつつ、今後も研究を進められればと思っています。皆さんにもそういう推進力が見つかることを期待しています。


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