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宇宙航空研究開発機構

死の谷から救う人々(前編)

2018年11月20日
飯島朋子

「今回も、何とか死の谷に落ちずに済みそうですね。」
「前もそうでしたよね~。この技術の実用化をどうしたものかと悩んでいたら、救ってくれる人が必ず現れましたよね。」
「そうですね。ALWIN(Airport Low-level Wind INformation※1:空港気象ドップラーレーダーや、ドップラーライダーにより空港周辺の低高度の風情報を提供するシステム)の技術は気象庁が拾ってくれて、死の谷に落ちずに済んだし。」

時は、2017年11月末。
大分空港でのSOLWIN(SOdar-based Low-level Wind INformation※2:ドップラーソーダー(音波)によって低高度の風情報を提供するシステム)設置の後、皆でビールを傾けながら、ほっと、そんな話になった。

「死の谷?な~に、それ?」ときますよね。

研究開発の前には、3種類の壁が立ちはだかると言われています。
1.魔の川:アイデア・基礎研究から実用化を目指した研究までの間の壁
2.死の谷:実用化研究から製品化までの間の壁
3.ダーウィンの海:製品が市場による淘汰を受けて生き残る際の壁

ごまんとある研究開発のほとんどは、2番目の死の谷に落ちてしまうそうだ。

そんな中、我々が研究開発したALWINや、SOLWINは死の谷に落ちずに乗り越えるという幸運に恵まれた。技術を実用化したいけど、どうしよう?と悩んでいる時に、必ずといって良いほど、「死の谷から救う人々」が現れたからだ。
「何で?何か秘訣あるの?」と質問が殺到しそうですね。
何故かな~と思ってネットで色々調べてみると、
「消費者にとって魅力的で品質の安定した製品を、現実的な価格で製造できることが死の谷に落ちない秘訣。」
と書かれていました。

Q. ALWINは魅力的な製品だったか?

確かに、ALWINの前身のLOTAS(LOw-level Turbulence Advisory System)※3の研究開発で、庄内空港で実証試験を行った際に、エアラインパイロットの評判を獲得しました。

それに目をつけた他エアラインや気象庁から、羽田空港や成田空港にも風情報を提供できないかとの話になり、気象庁と共同で、ALWINを開発することになったのです。

「コックピットで好きな時に、風の情報を見られるのが良いよね。分かりやすいし。」
「そうそう!ALWINのお蔭で、風を予測しながらの安定した着陸につながったよ。」
「乱気流があることが事前に分かるから、着陸復行(着陸をやり直すこと)にも備えられるし。」
「どの高度帯で風が変わっているか一目瞭然だから、進入速度を決めるのにも役立つしね。」
「成田で、横風が強い時なんて、滑走路の選定の参考にして、管制官に、こっちの滑走路が良いってリクエストできたよ。」

ふむふむ。パイロットの声を聞くと、どうやら、ALWINは着陸進入の計画や操縦に参考になる魅力的な製品だったと思われる。
気象庁が我々の技術を救ってくれて、死の谷に落ちずに一件落着!

図1 ALWINシステム構成

図1 ALWINシステム構成


図2 ALWIN風情報(撮影協力:日本航空株式会社)

図2 ALWIN風情報(撮影協力:日本航空株式会社)
※ コックピット内は特別な許可を頂いて撮影しています


そんな安堵もつかの間、
「どうして、成田空港と羽田空港だけなの?他の空港にもALWIN入れてよ。」
「他の空港だって、風には苦労しているのですよ。強風で着陸復行することもあるから、風情報が事前に分かれば良いのに。」
「そうだ、そうだ~、他の空港にもALWIN入れろ~。」と、
デモ行進が勃発(デモ行進は嘘です)。

もちろん、我々としてもALWINを他空港に導入したいのは山々でしたが、風を観測するドップラーレーダーやドップラーライダーがかなり高価。
「死の谷に落ちない」ために、「魅力的な製品」を満たしたものの、「現実的な価格」を満たすのは、気象庁や国のバックアップがないと、何ともなりませんでした。
「すみません!我々JAXAの力だけでは、何ともならないのですよ。」と、エアラインユーザーをなだめにかかっていると、

図3 SOLWIN運用イメージ

図3 SOLWIN運用イメージ


「ドップラーソーダー※4で風測れば、ALWINの1/4の価格で、できまっせ。ま~観測範囲限られるけど。」と、ソニック社という開発パートナーが現れたのです。
後のSOLWINの開発につながる、ソニック社が、死の谷から我々を救うことになったのだ。

ね!不思議でしょ!運よく死の谷から救う方々が現れる。
「どうして、どうして?何で、何で?」
私自身よく分かっていませんが、次回コラムで考察したいと思います。
乞うご期待!



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