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宇宙航空研究開発機構

はじめてのソニックブーム

2019年7月22日
中 右介

私はJAXAに入ってからずっとソニックブームの研究に携わっており、これまでに何度かソニックブームを聞く機会がありました。今回は、私が初めてソニックブームを聞いた時のことをご紹介したいと思います。

ソニックブームについては過去のコラムでも何度か触れられていますが、改めて簡単に説明すると、航空機等が超音速(音の伝搬よりも速い速度)で飛行する際に発生する衝撃音です。よく勘違いされるのですが、ソニックブームは音速を超える瞬間にだけ発生するのではなく、超音速で飛んでいる間はずっと発生しています。

今でこそこのように色々と語れるようになりましたが、私はJAXAに入るまではソニックブームについては何一つ知りませんでした。JAXAで研究を始めてからは知識は増えていきましたが、いくら論文等に載っているソニックブームの波形(音の圧力の時刻変化)を眺めてみても実際にどのように聞こえるかはわかるはずもなく、「自分が研究しているのはどんな音なのだろうか?実際に聞いてみたい。」という思いが強くなりました。

ちなみに、この頃は動画共有サイトの動画も参考にしていましたが、その一つに船の上でコンコルドのソニックブームを聞いている動画がありました。どうやら、コンコルドが飛んでいた頃には、大西洋沖までソニックブームを聞きに行くというツアーがあったようです。コンコルドは陸地上空では超音速、つまりソニックブームが発生する速度では飛べませんでしたので、日常生活の中でソニックブームを聞く機会はほとんどなく、このようなツアーが組まれたのでしょう。それだけ珍しく、興味のある音だったのだと思います。

さて、研究を開始してから2年半程経ち、共同研究の一環でNASAの超音速飛行試験に参加する機会に恵まれました。米国カリフォルニア州のエドワーズ空軍基地で行われた試験で、特殊なダイブ飛行なども含めて様々な強度のソニックブームを発生させる試験でした。

そして、初めてソニックブームを聞きました。よく使われる擬音語の通り、「ド・ドーン」という感じの音ですが、音として耳で感じるだけでなく、体全体に圧力を感じるような、体の中を圧力波が通り抜けていくような感覚でした。「聞く」というよりも「体感する」という表現の方が適切かもしれません。打ち上げ花火の音に似ていましたが、言葉ではうまく説明できないのですが、音質というか、雰囲気というか、肌触りというか、何かが少し違うようにも感じました。あくまで主観的なものですし、飛行試験という特殊な環境や、初めてソニックブームを聞くという心理面の影響かもしれませんが。

この試験期間中には、たまたまスペースシャトルのソニックブームも聞くことができました。帰還予定だったフロリダの天候が悪く、エドワーズ空軍基地に着陸することになったのです。その時、私はロサンゼルス郊外のホテルでの会議がちょうど終わったところで、ホテルの中庭でソニックブームを聞きました。飛行経路からやや離れた場所であったためか、個人的には試験で聞いた最も大きいソニックブームよりはうるさくはなく、音質も少しですが柔らかい印象でした。私たちはNASAの人から予定時刻を聞いて、今か今かと待ち構えていて聞いたのですが、中庭で日光浴や読書をしている他のお客さんのほとんどは事前にソニックブームが聞こえることを知らなかったようで、突然の聞きなれない衝撃音に少し驚いた様子の人や、辺りや上空を見回す人もいました。そんな生の反応を見られたことも貴重な経験で、とても参考になりました。

ソニックブームを実際に聞いたことで、自分の研究対象について、知識だけでなく感覚としても理解できた気がして、その後の研究はそれまでよりも確信を持って進めることができるようになりました。このように、初めてソニックブームを聞いた経験は、私の研究活動において大きな意味を持つものとなりました。

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