燃焼解析技術

航空エンジン設計のフロントローディング化に寄与できる数値シミュレーション技術を獲得するために、エンジン内で起こっている物理現象の解明とモデル化をおこなうとともに、開発したモデルを搭載してエンジン解析を行うためのソフトウェアの開発を行っています。

燃料噴流一次微粒化の詳細シミュレーション

エンジン燃焼器内での燃焼現象を解明することは、航空機エンジンの効率化に寄与します。燃焼器内の流れ場をシミュレーションする際には、条件としてノズルから噴射される燃料の正しい液滴径分布を与えることが、より精度の高い解析結果に繋がります。しかしながら、現在の技術ではノズル近辺の微粒化(一次微粒化)を計測することは難しいため、液滴径分布は推測するしかありません。この不確定性が、解析におけるボトルネックの一つとなっています。
本研究は、一次微粒化詳細解析から粒径分布の作成し、その粒径分布を実際の燃焼器解析に適用して高精度の解析結果を導き出すものです。
今後は、微粒化した燃焼の蒸発、空気との混合および燃焼の過程をシミュレーションに取り入れることにより、噴霧燃焼の詳細物理現象の理解、噴霧燃焼のモデル化を行っていく予定です。

ノズル付近における液相表面の可視化図

剥離・再付着を伴う乱流境界層の直接数値シミュレーション

乱流境界層の剥離現象は、航空宇宙分野においてもっとも挑戦的な課題の一つです。剥離現象は、バックステップ流れのような「形状剥離」と翼面上の流れに見られるような「逆圧力勾配による剥離」に分類されます。本研究は、圧力勾配を変化させることで発生する、剥離・再付着を伴う乱流境界層の直接数値シミュレーション(DNS)です。DNSデータの解析およびDNSデータを用いた乱流モデルの開発も進める予定です。

計算対象

噴出し・吸込みを計算領域の上部境界に課すことにより、流れを剥離・再付着させるとともに、剥離泡(再循環領域)を形成しています。剥離・再付着線が時空間に変動することが、この流れ場の一つの特徴です。流入データには、ゼロ圧力勾配の乱流境界層のDNSデータを与えています。

渦構造の等値面表示 速度勾配テンソルの第2不変量の正値(流れの方向は左下から右上)

高速・低速領域の等値面表示(Reθ=1500) 赤:高速 青:低速(流れの方向は左下から右上)

エンジン燃焼解析ソフトの開発

JAXAは内閣府のプロジェクト「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」のテーマの1つ「革新的燃焼技術」(FY2014-2018)に参加し、エンジン燃焼解析ソフトHINOCAの開発を行ってきました。物体形状を与えさえすれば計算を開始できる点が最大の特徴で、数週間から数か月かかると言われていた格子作成を行う必要がありません。SIP期間中は自動車エンジン用に開発を行ってきましたが、現在、航空エンジン用に再構築中です。本テーマで開発される、航空エンジン用の微粒化、乱流、噴霧燃焼などのモデルを組み込むことによって設計に使えるソフトとしていく予定です。

ガソリンエンジン全過程(吸気、燃料噴射、燃焼、排気)のシミュレーション

HINOCAを用いた航空エンジンシングルインジェクタ解析(気化した燃料の流れ)


2020年3月9日更新