特集「電動航空機」
特集「電動航空機」

2019年1月16日更新

第3回「JAXAが描く未来の電動航空機」
~エミッションフリー航空機~

今回は、私たちJAXAが将来の実現を目指す電動航空機「エミッションフリー航空機」の構想を紹介します。前回まで見てきたように、二酸化炭素(CO2)の排出量低減への取り組みは、航空分野においても大きな課題であり、JAXAでも代替燃料や航空機電動化の研究を以前から行っています。エミッションフリー航空機の実現に向け、JAXAがどのような研究開発を進めているかを見ていきます

世界初の独自技術を有人飛行実証

JAXAは以前から電動航空機の研究を行ってきました。その取り組みの一つが「航空機用電動推進システム技術の飛行実証(FEATHER)」です。FEATHERでは、従来のレシプロエンジンを、複数のモーターを連結した多重化モーターに置き換え、主翼下のコンテナ内にリチウムイオンバッテリーを搭載した航空機を使い、2014~15年にかけて飛行実証を行いました。多重化モーター等の独自技術を世界で初めて有人機で飛行実証しました。

2016~20年まで、JAXAはドイツ航空宇宙センター(DLR)と、電動推進技術に関する共同研究を行っています。2019年度には、FEATHERでの技術実証から改良を進めた多重化電動モーターシステムを、DLRの飛行試験プラットフォームである燃料電池航空機に搭載した飛行実証試験が予定されています。この試験は、電動モーターの故障を自動的に検出し、減少した電動モーターの推力を自動的に回復する機能を、実飛行環境下で実証するものです。電動航空機の実現には欠かせない技術の一つです。

温室効果ガスの排出が少なく、環境に優しいエミッションフリー航空機

JAXAが構想する電動航空機の最大の特長は、エミッションフリー航空機であることです。エミッションフリーとは、CO2や窒素酸化物(NOx)など、気候変動を引き起こしてさまざまな影響を与える温室効果ガスの排出を少なくすることです。つまり、エミッションフリー航空機は、新しいエンジンや電動モーターなどの推進系を利用した、従来の航空機よりも温室効果ガスの排出が少ない環境に優しい航空機なのです。

JAXAが構想するエミッションフリー航空機は、中~大型旅客機を想定しています。そのための推進系には、燃料電池とガスタービンエンジン、発電機、電動モーターを組み合わせたシリーズハイブリッド方式を想定しています。この方式では、発電機の役割を果たすジェットエンジンと推力を生み出すファンを直結させる必要はなく、設計においてはレイアウトの自由度が非常に高くなります。これは、現在研究が進められているウィングボディ形状に適していると言えます。

将来のエミッションフリー航空機構想

JAXAでは、2基のジェットエンジンで発電した電気によって、ウィングボディの後端に並べた10基のファンモーターを駆動させる機体を考えています。現在のジェット旅客機に比べ、燃費を50%以上も削減できます。

エミッションフリー航空機を実現するために必要な要素技術には、次のようなものがあります。

  • 高効率電動ファンおよび電動モーター
  • 燃料電池、バッテリー技術
  • パワーエレクトロニクス技術
  • 軽量複合材液体燃料電池タンク
  • ガスタービン技術
  • 複合材構造および最適設計技術
  • 低抵抗機体形状設計技術

これらすべての技術の研究開発を、JAXAだけで進めることは困難です。JAXAが描くエミッションフリー航空機を実現するため、さまざまな分野のメーカーや研究機関と協力して研究を進めていきます。

2030~50年代の実用化を目指して研究中

JAXAは、2030~50年代の実用化を目指してエミッションフリー航空機の研究を進めています。海外の動向を見ても分かるように、電動航空機の研究は世界各国で行われています。JAXAは電動航空機実現のために国内の要素技術を集結し、JAXA航空技術部門イノベーションハブを中核に、航空機電動化(ECLAIR)コンソーシアムを設立しました。これにより産官学が連携して国際競争力のある電動航空機技術の強化を目指して活動していきます。

次回予告
次回は、2018年12月に開催された「航空機電動化(ECLAIR)コンソーシアムオープンフォーラム」の内容を踏まえ、将来ビジョンや航空機電動化(ECLAIR)コンソーシアムで進めていく活動について紹介します。


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