上野 真

1974年東京都出身。1998年名古屋大学大学院工学研究科航空宇宙工学専攻博士課程前期課程修了。同年航空宇宙技術研究所(現JAXA)入所。主に高速飛行実証フェーズIIの空力計測・解析などに従事。2005年より風洞技術開発センターにて空力特性推定技術の高精度化に従事。2009年2月から1年間イタリアのナポリ大学客員研究員。技術士(航空・宇宙部門)。

将来を見据えて技術の種をまく

― 風洞技術開発センターでどんな研究をされていますか。

風洞試験と数値シミュレーションの結果を、実際の飛行時の条件に合わせて補正する研究をしています。風洞試験で得られる数値は、飛行状態と違うレイノルズ数(空気の粘り気を表す数値)や風洞の壁・支持装置の影響で、実際に飛行しているときの数値とは異なってきます。それを理論に従って補正していきます。シミュレーションでも、計算量を減らすと出てくる疑似抵抗という偽りの抵抗値を取り除く、といったことをやっています。
欧米にはドイツにあるETW(European Transonic Wind Tunnel)やアメリカのNTF(National Transonic Facility)といった、飛行中のレイノルズ数を再現できる風洞がありますが、試験にかかるコストが非常に高い。だから、安いコストで利用できる私たちJAXAの持っている風洞で得られるデータの精度を高める研究をしています。使う技術は最先端のものですが、その理論は何十年も前の古いものです。古いものを嫌う方もいらっしゃいますが、新しければ良いというものではなく、それだけ多くの人が検証し確立されてきた理論なんです。

― 研究のやりがいはどこにありますか。

私は学生時代を含めて19年間、風洞に携わっていますが、今の研究を始めたのは、JAXAの風洞のデータをETWやNTFのデータと整合性を持たせていくという要請があったためです。ですから、補正後の数値がNTFの数値とピッタリ合っていたときはうれしいですね。違っていたとしても、なぜ違うのかを同僚と議論できます。私の研究は派手なものではありませんが、日々の研究の中で議論したり、理屈を考えたりといったところに喜び があります。

― 研究をする環境についてはどう思われますか。

JAXAでは勉強会や講演会をやろうと手を 挙げれば、同僚や専門の違う人たちも集まっ てくれます。
私の研究は、今日やったら明日すぐに結果が出るというものではありません。何かやろ と思ったら、何年も前に勉強会を立ち上げます。そうやって下地を作って共通認識を持つようになると、自分の欲しい世界ができあがっていくんです。JAXAは、そうした環境を自分で作っていける自由度がありますね。

― この仕事を目指したきっかけは何ですか?

私が航空学科に進学したのは、父の影響です。父は航空機マニアで、部屋には飛行機の模型がたくさんありました。子どものころから飛行機模型を飛ばしたりしていたので、自然 に航空業界を目指すよう刷り込まれたのだと思います。高校1年生くらいまでは、法学部を目指していたのですが(笑)。
実は、風洞試験に関わるようになったのも、研究分野を決めるときにじゃんけんに負け たから(笑)。本当は制御の研究をしたかったんです。でも、私は何事も突き詰めていって、面白がれる性格なんですね。自分の置かれた環境が望んだものと違っていても、日々の積 み重ねの中に面白いことは山のようにある と思います。そして、自分の目指す世界を常に頭に描きながら、3年先、5年先、20年先を見据えて種をまいています。

― これから航空宇宙分野を目指す後輩たちにアドバイスをお願いします。

大学受験に失敗したから無理だとか、航空 学科じゃないからダメだとか、そうじゃないんです。JAXAに入ることがゴールじゃない、本当にやりたいことがあれば、JAXA以外の道だってあります。もしかしたら自分で会社 を作ってロケットを打ち上げることだってで きるかもしれない。JAXAに入ったら何とか なるというのは間違いです。勉強はどこにい たっていくらでもできるし、就職してからも勉強しなくちゃいけない。失敗したとしても 大丈夫。じゃんけんで負けた私が保証します。

風洞で使用する標準モデルの前で

このインタビューは、JAXA航空部門広報誌「FLIGHT PATH No.5」からの転載です。
所属・肩書などは取材当時のものです。

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