小島 孝之

1973年神奈川県生まれ。早稲田大学機械工学科、東京大学大学院航空宇宙工学科、宇宙科学研究所COE研究員を経て2003年航空宇宙技術研究所(現JAXA)入所。2010年10月~2011年9月米国メリーランド大学客員研究員。2012年10月~2014年6月事業推進部技術研究企画室。

”アメリカまで2時間”を実現する技術

― JAXAが研究する極超音速旅客機とはどのようなものですか。

東京からロサンゼルスまで太平洋を2時間で横断できる旅客機です。現在の構想としては、全長80メートル程度100人乗りで、音速の5倍、マッハ5のスピードで飛びます。
極超音速旅客機は速く飛ぶためにこれまでの飛行機とは違うところがあります。通常の飛行機はジェット燃料を使って飛びますが、JAXAでは、ロケットに使うような液体水素を燃料に使う極超音速機の研究をしています。マッハ5という高速で飛ぶと、空気の圧縮によりエンジンに取り込む空気の温度が1000℃にもなります。この空気をマイナス250℃の液体水素で冷やすことによりエンジンが効率よく作動できるようになります。
高温になると金属は、単純計算では1000℃で1%程度伸びますから、80メートルの機体だと80センチも伸びる計算になります。機体が伸びても問題が起きないような構造にするか、熱による変形が少ない材料にするか、変形してはならない部分は何らかの方法で熱を逃がすか遮断するかといった熱の管理も問題になります。 また、空気力学的な問題としては、音速を超えて飛行する際に発生する衝撃波があります。速度が速くなるほど衝撃波は強くなり、それに伴ってエンジンの効率も落ちてしまうので、可変インテークといった衝撃波の形を上手にコントロールしてエンジンの効率を保つ技術も重要になってきます。私は特に空力と熱に関する設計を担当しています。

― どのようなきっかけで研究者を目指し、どのような経緯でこの研究に関わることになったのですか。

小学校6年生のときに、マンションの屋上から双眼鏡でぼやっとしたハレー彗星を見て感動したことが、宇宙への憧れを持つきっかけでした。中学・高校では地学部に入って、山の頂上から星を見て宇宙にいるような気分を味わっていました。その頃から、星や宇宙のことを仕事にしたいと考えるようになって。 大学院のときには、相模原の宇宙科学研究所(現在のJAXA宇宙科学研究所)で再使用型宇宙輸送機に利用する極超音速エンジンの研究に関わりました。それ以来、15年ぐらい液体水素を使った極超音速エンジンの研究に携わっています。
その間、メリーランド大学に1年間の留学もさせてもらいました。新しい概念のインテークを、今研究しているエンジンに適用できないかを調べるのが目的でしたが、アメリカの最新情報に触れることもできました。日本の方が進んでいる要素技術もありますが、全体をシステムとしてまとめる能力に関しては日米でだいぶ違います。アメリカは多くの人材を投入するので、開発スピードも早いですね。

― 現在の夢はなんですか。

大学院に入った頃には、宇宙に行く飛行機を自分で作って、自分で操縦して宇宙へ行くという夢がありましたが、年を重ねた今では自分が操縦して宇宙まで飛ぶということはちょっと無理かなと思っています。しかし、やはり今まで世の中に存在しなかった新しい航空機を作りあげたいという気持ちはあります。アメリカへ2時間で行けるようになれば日帰りも可能になりますし、生活も変わってくる。ライフスタイルのイノベーションを起こして、人類に貢献することを夢見ています。

― 航空宇宙分野を目指す後輩たちへのメッセージをお願いします。

航空宇宙分野は、とても複雑なシステムであり、複数の分野にまたがる総合工学です。概算になりますが、部品点数をとってみても自動車に比べてロケットは10倍、飛行機はさらにその10倍の部品点数になります。部品点数だけでなく、空力や熱、構造などの工学的側面、さらにビジネスや法律など多岐にわたる課題が出てきます。裾野も広く波及効果も大きいことが特徴です。そうした意味では、どんな経験でも役立つと言えます。勉強だけでなく、趣味や好きなこと、何でもいろいろなことを経験し、引き出しをいっぱい持っていることが重要だと思います。

極超音速機模型を前に

このインタビューは、JAXA航空部門広報誌「FLIGHT PATH No.6」からの転載です。
所属・肩書などは取材当時のものです。

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