中北 和之

1969年生まれ。1992年3月名古屋大学工学部航空学科卒業。1994年3月名古屋大学大学院工学研究科博士前期課程修了。1994年航空宇宙技術研究所(現JAXA)入所。2015年から現職。空力技術研究ユニット併任。

簡単に精密に計測する技術で設計を支援する

― これまでどのような研究に取り組まれてきましたか。

大学時代から、極超音速風洞を使って模型に加わる空気力や加熱率を調べる研究をしていました。1994年にJAXA、当時の航空宇宙技術研究所(NAL)に入ってからほとんどの期間、風洞試験に関わる研究に取り組んできました。最初は極超音速風洞を使って宇宙往還機の空力特性や熱特性などの計測技術の研究を行いましたが、1999年にPSP(感圧塗料)の研究プロジェクトを立ち上げた浅井圭介さん(現在は東北大学教授)から誘われて以来、現在に至るまでPSPの技術開発を続けています。2009年からは、JAXAの実験用航空機を使い、飛行中の航空機の圧力や主翼の変形量を計測する技術にも挑戦しています。(PSPについては、本誌15ページ「ソラの技」を参照)
また、2015年4月から「次世代航空イノベーションハブ」の基盤応用技術研究チームの一員として、これまで培ってきた風洞計測技術に数値シミュレーション技術や実際の航空機による計測技術など複数の基盤技術を組み合わせ、環境に優しい航空機を低コストで早く設計できる技術を開発することで、技術面から日本の航空機産業を支援し盛り上げることを目指しています。

― これまでの中で印象に残っている実験は何ですか。

特に印象に残っているものは二つあります。一つは大学院時代に行った、極超音速域の空気の流れにおける衝撃波と境界層干渉流れの加熱率分布の計測です。トラブルで1点になってしまった温度センサーを前後に動かしながら100回以上試験したのですが、最初は真っ白だったグラフが試験を重ねるごとに点が繋がって加熱率分布が浮かび上がってくることが、とても新鮮に感じたことを今でも忘れられません。もう一つは、2000年から2003年にかけて行った極超音速衝撃風洞で行ったPSP計測試験です。自分にとっての最初のPSP計測試験で、当時は誰も行っていなかった超短時間でのPSP計測だったため、模型に均一なムラの無いPSPコーティングを行う作業や、タイミングを合わせて撮影する手順など試行錯誤の連続でした。世界で初めて20ミリ秒という超短時間でのPSP計測に成功し圧力分布の画像が得られた時には、ノイズだらけの結果でしたが苦労が報われたと感じました。

― PSPによる計測の面白さはどういうところでしょうか。

普段目に見えない圧力分布が、PSPを使うことでビジュアル化されることは面白いですね。画像として見えるというのは航空機の設計や流れを理解する上で大きな助けになりますし、PSP技術を開発する中でも大きなモチベーションにも繋がります。今後も、これまで見ることができなかった航空機の圧力分布や流れの特性を分かりやすく示し、航空機の性能を良くすることに繋がるデータを出していければと思います。

― PSPは、実際の航空機の設計にどのように役立てられているのでしょうか。

2004年頃から、三菱重工業株式会社と旅客機形状における実用的PSP計測技術の共同研究を行いました。PSPデータを単なる圧力分布計測データではなく、構造強度評価用データとして用いるためのデータ処理や大量のデータを処理する技術など、共同研究によって急速に技術力を高められたと感じていますし、三菱重工業側にも、従来の計測技術では十分ではなかった設計データを構築することができるようになり、PSP計測を高く評価していただきました。また、航空宇宙分野以外でも、自動車エンジンのエアインテークや鉄道用パンタグラフの圧力分布計測などで、 PSPを使った共同研究や技術移転の実績があります。

― 将来の目標を教えてください。

PSP技術としての目標の一つは速くて小さい圧力変動まで測れるPSP技術が目標です。まだまだ測ることができるのは大きな圧力変動に限られ、周波数も数kHzまでです。もう一つは、今のPSPは準備に時間と人手がかかるので、スプレー缶1本で塗装できて、 10分で準備が終わるような手軽なPSP計測があればもっとPSPの価値が上がると思います。
さらに大きな目標としては、国内でも5年くらいごとに新型機がどんどん開発されるようにすること。PSPでの経験からも機体開発があると技術は確実に進歩します。開発が繰り返されると加速度的に技術や飛行機性能は良くなります。日本がこのプラスのスパイラルに入れるよう、微力ですが全力を尽くしたいと思います。

このインタビューは、JAXA航空部門広報誌「FLIGHT PATH No.10」からの転載です。
所属・肩書などは取材当時のものです。

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