環境に優しいエンジンをめざして!

JAXAメールマガジン第189号(2012年12月17日発行)
鈴木和雄

はじめまして。鈴木和雄と言います。長年航空機用エンジンの研究開発に携わってきた私から、現在各国で競って開発中の最新の航空機エンジン事情について紹介したいと思います。
航空機は現在でも日々進化していますが、特に今後の航空機に求められる大切なことは、環境に優しいことです。航空機による燃焼排ガス、騒音、CO2(二酸化炭素)が環境に影響を与えますが、特にエンジンはいずれも出しており、その環境性能の改善が強く求められています。
ここでは、NOx(窒素酸化物)などの排ガス特性を決定づけるエンジン燃焼器の開発について述べます。

燃焼器内部では、燃焼の安定や促進のために流れに旋回や強い乱れを与えて非常に複雑な流れを作ります。また、ジェット燃料は液体であり、細かい液滴として噴射され、蒸発過程を経て気体となり空気と混合して燃焼します。全体の現象は非常に複雑であり、現在の高性能スパコンを用いた数値シミュレーションでも歯が立たないのが実状です。実機の燃焼器開発は、主に実験により行われています。
現在、現象を理解するために、燃焼反応域から発する特定の波長の光の画像を高速度で測定し、火炎構造や燃焼振動を探る研究や、レーザー光をあるポイントに集光してプラズマを作り、異なる原子の発する光を分光計測して、そこでの燃料と空気の局所的な混合割合を求める研究などを実施しています。
開発には、このようなデータを蓄積することはもちろん大事なことですが、意外に重要なのは、機器を使わずに目視で火炎の様子を観察することです。経験を積むと直接目視することで、火炎の色や輝度により燃焼器内の混合気の燃料濃淡や燃焼状況が直感的に分かります。そのため、開発の第1歩として、観測窓を設けられる部分燃焼器模型を作り火炎の観察から始めます。因果関係が複雑で分からなくなるほど、「人間の感覚(勘)」の助けが大事になるようです。