EFDとCFD

JAXAメールマガジン第199号(2013年6月5日発行)
中道二郎

昔、ある偉い先生と話していると、「空気力学の研究者には“実験屋”と“計算屋”がいる。実験屋は計算を信じ、計算屋は実験を信じる」とおっしゃったのである。聞き間違いと思い問い直すと同じ事を言う。ダジャレ、ジョークの大好きな先生だったので、どちらもいい加減なことをしていて自信がなく相手を信じるのが無難だ…くらいの皮肉の意味にとっていた。後日、また同じ話題になり、気になっていたのでその真意を確かめることにした。
その先生が言うにはこうだ。実験屋も計算屋もプロとして可能な限りの努力をする。しかしながら限界があり、それは実際やってる者が一番よく分かる。計算屋は数学モデル、境界条件、離散化手法いろいろ気になることがある。実験屋もしかり。風洞壁干渉、天秤の精度、風速の精度、迎角の精度。自分の技術の粋を極めて実験結果/計算結果を出すのであるが、相手もそうであろうと敬意を払いつつ切磋琢磨の環境にある。結果が食い違えば、自分の方の技術不足、まずい点ばかりが気になる。したがって、先のようなことになるという。

これは、計算は線形理論、風洞は極めて初期のシステムを使っていた時代の話である。今や風洞試験はEFD(Experimental Fluid Dynamic)、計算はCFD(Computational Fluid Dynamics)と呼ばれる時代である。しかし、本質は変わらないであろう。実験屋、計算屋の双方の切磋琢磨があって航空機の空気力学が発展してきた。計算機が如何に速くなろうとも、風洞が如何に高度化しようとも、計算屋、実験屋、それぞれ自分の結果が正しいと言い張るようなことになるようでは、スパコンは世界で一番である必要はないでしょ、はたまたもう風洞なんか必要ないんじゃないの、などと言われても致し方なかろう。

最近、文部科学省は2020年までに京コンピュータの100倍の計算機を開発すると発表した。