電気飛行機と自動化技術

JAXAメールマガジン第203号(2013年8月5日発行)
飯島朋子

昨年、ドイツで「Arcus E」という電動モーターグライダーに体験搭乗した際に、スタートボタンを押してスロットルレバーを操作するだけで離陸するシンプルさに驚きました。一方、現状の内燃機関を使用した小型機は、離陸前にエンジンの状態の様々なチェックを手動で行い暖気運転を必要とします。CO2も排出するので環境にも優しくありません。騒音も小さくなく無視できません。

「環境問題も考慮して、車を運転する感覚で誰もが飛行機が操縦可能となる。」その答えに向かう一つに「電気飛行機」の技術があると思っています。JAXAメールマガジン第194号の「実用性のある技術とは?」では、FEATHER(Flight-demonstration of Electric Aircraft Technology for Harmonized Ecological Revolution)に関する研究活動に関してふれましたが、JAXAではこういう点も視野に入れた電気飛行機の技術を研究しています。
現在、航空機で使用されているエンジンが電動推進システムに代わると燃費・整備性の向上、CO2の削減に寄与するだけではなく様々なメリットがあると考えています。
例えば電気飛行機になるとモーターの状態はシステム側が自動的にチェック、暖気運転もなし、冒頭で述べたようにスタートボタンを押してスロットルレバーを操作すればすぐに離陸、まさに車感覚で簡単に操縦が行えます。操作手順が簡略化されれば航空機の操縦に関して敷居を下げることになります。エンジンに関する計器も減って単純となるため、取得しなければならない情報量が減りパイロットの負荷を下げることが期待できます。騒音の低減もエンジン出力の調整や飛行経路変更操作に対するパイロットの負荷を下げます。
旅客機のような操縦系統自動化の技術に電気飛行機のシンプルさを組み合わせることができれば、革新的なパイロット負荷の軽減につながると考えられます。
従来、航空機の操縦には多くの訓練時間とコストが要求されましたが、電気飛行機や自動化の技術によって自家用車のように飛行機を普通に運転できる日がくることを目指しています。
電気飛行機とシステム自動化の技術の組み合わせは環境にも人にも優しい技術なのです。

ただ、電気飛行機や自動化は新たな課題を生むのも事実です。推進系電動化に伴ってシステムがブラックボックス化され、何か故障があって異常状態がパイロットに分からなければ逆に事故につながります。初期の航空機の自動化ではシステムがブラックボックス化されてシステムの振る舞いが分からなくて事故に至ったケース、システム側が判断して自動的に操作が行われたのをパイロットが気付かずに事故に至ったケース、自動化を過信して事故に至ったケース等がありました。自動化によってパイロットの役割が主に「操縦」から「コンピュータに指示を与える操作・監視」に変わった1970年~1990年の初め頃にかけて自動化による事故が多く発生しました。本来安全を保つための仕掛けが不安全の原因となる皮肉な事態に陥りました。
電動化により負担が軽減したはずが故障時には急に負荷が増えて対処できなくなる事態、電動化システムを過信するあまり事故に至る事態等、初期の自動化航空機で発生した問題が繰り返されるかもしれません。JAXAでは「人にも優しく環境にも優しい」電気飛行機の技術を研究するのはもちろんですが、研究を進めるに当たって、自動化航空機事故に学んでシステムを構築していこうと考えています。