静かな航空機を目指して

JAXAメールマガジン第215号(2014年2月20日発行)
鈴木和雄

JAXAメールマガジン第207号に続きまして、航空エンジンの話をします。
航空機からの騒音は空港周辺の住環境などを乱すので、低減の努力がなされています。音源は多様で、エンジンからはジェット騒音やファン騒音が大きく、機体からはエンジンパワーが絞られる着陸時に、脚やフラップからの空力騒音が問題になります。

JAXAでも、エンジン騒音および機体騒音の低減を目指した研究が積極的になされていますが、ここでは離陸でエンジン出力を上げた時に大きくなるジェット騒音についてとりあげます。エンジンからの高速排気ジェットが外の大気と混合するとき生成される乱れに起因する音で、遠くまで伝搬する低い周波数の音も含まれる広帯域の騒音です。ジェット騒音はエンジンの外で発生するので、エンジン内壁で吸音できず、音源を小さくするしかありませんが、排気ノズルの形状や突起を付けてジェットと大気の混合を制御することで低減しています。
基本的に排気ジェットの速度が速いほど大きな音となり、その音の強さはジェット速度のほぼ8乗に比例します。ジェット騒音低減のための最大の技術革新は、ファンジェットエンジンの出現です。必要な推力を得るのに少量の空気を高速に加速するかわりに、ファンにより大量の空気を小さく加速して同じ推力を得るエンジンです。これによりジェット騒音は格段に減らすことができました。このアイデアは、本来推進効率の向上を実現するもので、まさに一石二鳥の技術です。現在の中・大型旅客機はほとんどこのエンジンを使用しています。
一方、超音速機ではソニックブームとともにジェット騒音の低減は難しい問題となります。超音速巡航時では排気ジェットを速くしなければならないので、同じエンジンで離陸時の必要推力を得るには排気ジェットを速くしなければならず、ジェット騒音の増大を招きます。したがって、低騒音で燃費効率の良い超音速旅客機を実現するためには、離陸時の低速加速条件では大量の空気を吸い込んで小さく加速し、巡航時には少流量の高速ジェットを噴出する可変サイクルエンジンなど新タイプの推進システムが必要になります。