理想の空を手に入れよう!

JAXAメールマガジン第230号(2014年10月6日発行)
徳川直子

「理想的な空と言えば、雲一つない青空でしょ!」
「満天の星空の方がロマンチックじゃない!?」

私自身は、高校生時代、ターナーの絵のような夕焼けが大好きでした。

あ、見ていて楽しくなる空の話ではありませんでしたね。
航空機にとって、「理想の空」の話です。

「航空機にとって理想の空ってあるの!?」

航空機は、言わずとしれた全天候型ですから、余程の荒天でない限りは運航できますので、たいていは「理想的な空」と言えます。
しかし空を飛ぶのですから、乱気流があれば揺れます。また旅客機は、機体がいるところでの天候だけでなく、遠く離れた離陸地や着陸地の天候に因って、遅れが生じる場合や欠航になる場合もありますから、「理想的な空」とばかりは言えません。
JAXAでは、今以上に気象条件の影響の影響を受けにくくする取り組みとして、「航空安全技術の研究開発プログラム(STAR)」の中の「乱気流事故防止機体技術の実証(SafeAvio)」で、「ドップラーライダー」と航空機の自動姿勢制御装置を組み合わせ、乱気流による急な機体の揺れを抑える「乱気流事故防止機体技術(ウェザー・セーフティ・アビオニクス)」の開発を行っています。
この技術が確立すれば、さらに「理想的な空」が手に入れやすくなるでしょう。

一方、気象条件の影響を受けやすいのは、飛行実験を行うための無人の実験機です。
無人の実験機が飛行するには、まさに「理想の空」が必要と言えます。

気象条件の影響を受けやすい理由として、まず、「無人機であること」が挙げられます。
無人の実験機を制御する場合、機上のパイロットが操縦するのではなく、地上にいる操縦者が操縦するかあるいはフライト・コンピュータで自動操縦を行うために、機体の姿勢や飛行条件の変化に対して臨機応変な制御がしにくいのです。そのため、有人機よりも気象条件の影響を受けやすくなります。

気象条件の影響を受けやすいもう一つの理由として、「実験機であること」も挙げられます。
「実験機」の場合、単に飛ぶだけが目的でなく、実験をする目的がありますから、それを達成するために飛行できる条件が限られます。
例えば、これまでもご紹介してきている“NEXST-1”では「低抵抗な機体を設計する技術の実証」が、この夏試験を予定していた“D-SEND#2”では、「ソニックブームを低く抑えた設計する技術の実証」が目的でした。

一つ目の例として挙げたNEXST-1では、機体の表面近くの流れを計測する必要がありました。流れを計測するセンサーは電気的に動作していますから、センサーを壊す、あるいは漏電する可能性のある雨の中は飛行できませんでした。また境界層の状態が層流か乱流化を調べるには、気流中の変動が小さい方が良いので、乱気流(タービュランス)も好ましくありませんでした。

2つ目の例として挙げたD-SEND#2では、実験機を超音速飛行させるため、実験機を気球に吊り下げて高高度まで上昇させ、ソニックブームを計測するする位置の近くで気球から切り離し、飛行させる必要があります。気球を、風に乗せ切り離す位置まで運ぶため、地上から上空までの風の速さと向きが実験を実現させる条件として課せられました。また実験機が上昇し始めるとき、風が強いと実験機が大きく揺れて危険なため、気球を放球する地上での風速も大事な実験実現の条件でした。そして、残念ながら、この夏には、JAXAで確保していた期間内にこの気象条件を満足する日がなく、結果として飛行実験が出来ませんでした。

我々研究者は、「理想の空」を手に入れるために、天候をコントロールすることは出来ません。しかし「理想の空」の条件を緩める工夫は出来ます。
例えば、計測器の精度を上げたり、計測されたデータに対して気象条件が及ぼす影響を定量的に評価出来るような技術を確立したりすれば、飛行実験が可能になる気象条件が緩くなり、「理想の空」を手に入れやすくなるのです。

実験機が飛行できる「理想の空」を手に入れる技術は、皆さんが快適に過ごせる「理想的な空」の旅を提供する技術に繋がると思います。我々の取り組みを応援して頂ければ幸いです。