燃焼器開発におけるCFDへの期待

JAXAメールマガジン第234号(2014年12月5日発行)
鈴木和雄

JAXAメールマガジン第224号に続きまして、航空エンジンの話をします。
航空エンジンの燃焼器開発におけるCFD(流体数値シミュレーション)の役割と今後への期待をお話ししたいと思います。コンピューターの進歩は著しく、その高い能力は航空エンジンの研究開発にいろいろと活用されていて、開発期間の短縮と開発コスト低減に非常に役立っています。しかし、残念ながら現在のところ燃焼器開発に限ってはその役割は限定的です。

燃焼器内部では燃焼反応が進行し、熱の発生、多種の反応生成物、強い乱流や循環流などのため流れが複雑になり、さらに使用する液体燃料の微粒化、気化、空気との混合などの複雑な現象が同時に進行し、いかに容量が大きく計算速度が速い現在のコンピューターをもってしても、実用燃焼器の設計に直接に役立つ定量的情報はまだ提供できないのが現状です。

しかし、解析する対象を選べば有用な情報を提供でき、その適用を広げていく努力がなされています。たとえば、燃焼器出口の温度分布を予測して、タービン側から要求される温度プロファイルに近づける改良などには、現状のCFDでも十分に利用されています。温度分布を整えるのは、希釈領域にライナー空気孔から空気ジェットを流入させて行うので、燃焼反応なしの高温空気とジェット噴流の混合の問題として扱えます。

現在の燃焼器開発手法は、燃焼実験を繰り返して実験データを積み重ねて燃焼器を徐々に改良し、求められる性能を満たすようにしてゆきます。段階的に1本の燃料供給部を持つ箱形燃焼器、次に3本の供給部を持つセクター形燃焼器、最後にアニュラー(環状)形燃焼器で試験をして満足できる結果が得られたならば、エンジンに組み込んで総合評価試験を実施するなど数多くの実験を必要とします。

このような開発プロセスでのCFDの役割は、燃焼器全体を直接的にシミュレーションするのは能力を超えるので、計算できる程度に複雑な現象をモデル化する工夫をしながら、改良の方向に適切な指針を与え、燃焼器モデルの試作や燃焼実験を少なくできるようにすることです。

光学的計測法の進歩で燃焼器内部の現象について詳細な理解が進んでいますので、その知見の蓄積により適切なモデル化が進み、数値シミュレーションが設計の強力な道具となることが期待されています。