湿度と風洞試験のはなし

JAXAメールマガジン第246号(2015年6月22日発行)
上野真

次世代航空イノベーションハブ 基盤応用技術研究チームの上野 真です。前回まで風洞技術開発センターにいたのですが異動しました。とはいえ、相変わらず風洞試験もしてます。

ところで、本稿の執筆時点で6月なんですが、湿度が毎日すごいです。じめじめしていますね。洗濯物が乾かない…どころか臭ってくる…。洗濯し直したり漂白したり、嫌だなあ。南向きの家に引っ越したいな…。おっといけない、私の日常生活を書くコラムではありませんでしたね。というわけで、今日は湿度というか水蒸気のお話など。

飛行機って、大体高度3万フィート(10キロメートル弱)とかを飛んでいますよね。機内で気になることと言えば潤い! というか湿度ですね。飛行機に長時間乗るとお肌が乾燥したり、私の場合は眼が乾燥で沁みたりします。喉をやられる人もいますね。そう、高いところは乾燥しています。飛行機も外の空気を取り込んで圧縮して機内の空気に使っていますので、外の空気が水蒸気を含んでいないと機内も乾燥します。腐食という問題もあるので、機体自体にとっては水蒸気が少ないのは良いことだと言われています。が、乗っている人には湿度が欲しいですね。湿度があり過ぎても困りますが、無さ過ぎても困るわけです。

最近登場した複合材を多用した機体では、機内の湿度を上げられるようになったと話題になっていましたが、まず湿度についておさらいしましょう。私たちが普段、「湿度」と呼んでいるのは、相対湿度というものです。これはある気温における飽和蒸気圧に対する水蒸気圧の比として定義されます。この、飽和蒸気圧は気温が下がると下がります。高度が上がると気温も下がるので飽和蒸気圧も下がります。気圧も下がりますしね。というわけで、空気中に含んでいられる水蒸気の量はどんどん減ります。比なので、同じ水蒸気の量では高度が上がると実は「湿度」は上がります。しかし、空気中に含める水蒸気の量自体が少ないので乾燥してしまうのですね。

で、ここまで前置きなんですが、そんなわけで飛行機の周りの空気の流れは、特に巡航中はとても乾燥しています。なので、飛行機の特性を地上で取得する風洞試験でも乾燥空気と言って湿度を取り除いた空気を使って試験をします。この湿度、やっかいです。風洞試験設備は地表にありますので、空気は湿っています。そこで色々作業をしていると、設備の中に湿り気が侵入してくる時があります。空気ですからね。どこでも入ってきます。で、準備を終了して試験を始めると、特に遷音速風洞を超音速で運転すると空気の温度がものすごく下がります。そうすると、通風中の空気が凝結してしまうことがあります。モニターで眺めていると、真っ白な靄(もや)が流れて模型が見えなくなってしまいます。

模型が見えないのは安全上の問題がありますが、それだけでなく凝結が起きると凝結の過程で熱が空気と水の間でやり取りされるため、衝撃波の発生の仕方が影響を受けてしまいます。すなわち、模型の周りの空気の流れが変わってしまうということです。なので、風洞で風を吹いて靄(もや)が出てしまうときは、いったん風洞の中の気圧を下げられるだけ下げて空気を抜き、乾燥空気を入れ直すことで空気の入れ替えをします。JAXAの風洞は巨大なので、空気の入れ替えをすると莫大な量の乾燥空気を消費することになります。入れ替えの時間もかかります。

そんなわけで、私はあまり湿度が好きではありません。(洗濯もし直さなきゃならないし。)私たちの生活にとって潤いは必要ですが、風洞試験にとっては敵なのです。