飛行実験基地について

JAXAメールマガジン第281号(2016年12月20日発行)
柳原正明

チーフエンジニア室の柳原です。

前回は無人機の飛行実験の話をさせていただきましたが、今回は、飛行実験基地についてのお話です。
現在、JAXAでは3機の実験用航空機を運用し、いろいろな飛行実験を行っています。これらの航空機は、東京都の調布飛行場及び愛知県の名古屋空港を基地として、その付近や、北海道の大樹航空宇宙実験場で実験を行っています。
しかし、前回ご紹介したような、大型の無人機を用いた飛行実験では、確実に安全を確保するため、広大な無人区域が必要となります。そのような場所は日本国内では確保することが難しいため、どうしても海外の実験場を用いることが必要になります。とはいえ、海外でも、大都会の近郊では、このような環境を見つけることは難しく、必然的に人里離れた場所で行うことになります。

1990年代から2000年代の初めにかけて行われた宇宙往還機HOPEの開発のための飛行実験で、私が参画したALFLEX、HSFD-フェーズI、同フェーズIIも、海外で実施されました。ALFLEXは、オーストラリアのウーメラという赤土に覆われた荒地で、HSFDフェーズIは、ハワイの南、ほぼ赤道直下のクリスマス島という南国の島で、HSFD-フェーズIIは、スウェーデンのエスレンジというツンドラ地帯の実験場でした。
それぞれ、数か月から半年、現地にカンヅメになって実験を行いましたが、海外で、しかも都会から離れて生活基盤も十分とはいえない環境であるため、飛行実験自体の苦労に加えて、生活の面での苦労がありました。例えばクリスマス島では、毎日、昼食と夕食は、ほぼ同じお弁当でしたし、ホテルの水道からは塩水! シャンプーで頭を洗っても泡がたちません。私は参画していませんが、その後に行われた超音速機技術の実験であるNEXST-1やD-SEND#2も、それぞれウーメラとエスレンジで行われ、実験隊の皆さんは、私と同じような苦労をされたものと思います。
アメリカでは、同様の飛行実験は、ほとんどすべて自国内で実施されています。またヨーロッパでも、国は違っても、同じヨーロッパ諸国の中で実験を行っています。これら欧米と比べると、日本では大きなハンデがあります。欧米に匹敵する飛行実験場が国内に確保できるようになることが私の夢ですが、このようなハンデに負けず、HOPEや超音速機の研究では、世界最先端の実験成果が生み出されたと思っています。
しかし、一方では、普通では行くことができないような場所に長期滞在したことで、いろいろな面白い体験もできました。例えば、ウーメラでは、体長50~60cmもあったでしょうか、大きなトカゲが、サボテンをバリバリと食べているところを見ることができましたし、クリスマス島ではサンゴ礁の中を熱帯魚と一緒に泳ぎ、スウェーデンでは夏の白夜や冬の壮大なオーロラ、建物から家具や食器まで氷でできたホテルなどを体験しました。また、クリスマス島では、実験場からホテルまで、約40kmの無人地帯を、毎日、車で往復したのですが、夕方になると、大量のカニが道を横断するため、その中を車で走るスリルも味わえました。ただし、時にはカニを踏み潰したためにタイヤがパンクし、路上でタイヤ交換する破目に…
このように、飛行実験では実験自体の面白さと大変さに加えて、生活の苦しさと楽しさもあり、言葉では表せないような貴重な経験となりました。

▽ JAXAの実験用航空機
https://www.aero.jaxa.jp/facilities/flight/
▽ 大樹航空宇宙実験場
https://www.jaxa.jp/about/centers/taiki/index_j.html
▽ 小型自動着陸実験「ALFLEX」
https://www.jaxa.jp/projects/rockets/alflex/index_j.html
▽ 高速飛行実証「HSFD」フェーズI
https://www.jaxa.jp/press/nasda/2002/hsfd_20021120_j.html
▽ 高速飛行実証「HSFD」フェーズII
https://www.jaxa.jp/press/nasda/2003/hsfd-sac_20030702_j.html
▽ NEXST-1
https://www.aero.jaxa.jp/research/frontier/sst/nexst-1.html
▽ D-SEND#2
https://www.aero.jaxa.jp/research/frontier/sst/d-send.html
▽ 夢を飛ばす人々~航空研究者が綴るコラム~ バックナンバー
https://www.aero.jaxa.jp/topics/column/