宇宙航空研究開発機構

MuPAL-ε 機体の変形量を計測する地上試験

2007/6/27付けレポートで、ブレード翼端の位置をキャビン内からカメラで撮影して計測する試験についてご紹介しました。この際に問題となる、飛行中の機体の変形量を計測するための地上試験を実施しました。

航空機の構造は、意外に柔らかくできています。旅客機に乗るとき、主翼の近くの窓際の席に座ると、翼が変形する様子を見ることができます。地上にいる時と飛行中では翼端の位置が違って見えますし、飛行中だけでも気流が悪いときなどは翼が上下に撓(しな)る様子を見ることができます。

今回計測する対象は、翼ではなく胴体なので、目で見て分かるほど大きく変形するわけではありませんが、ブレード翼端の位置を精度良く測るためには胴体の変形量は1cm以下程度でなければなりません。これを確認するのが今回の地上試験の目的です。

変形量を計測するのは、(1)メインロータのハブ(ロータの中心にあるブレードが取り付けられている部分)からキャビンの床面までの間と、(2)キャビンの天井から床面までの2箇所です。キャビンの上にメインロータがあるので、(2)の変形量は(1)の変形量の中に含まれることになります。知りたいのは (1)の変形量ですが、機体のどのあたりがどの程度変形するか詳しく知るために(2)も計測することにしました。

変形量の計測は「ポテンショメータ」というセンサを使って行います。巻き尺のようなもので、細いワイヤを引き出してその長さの変化を電気信号として取り出すことにより、ほんの僅かな変形でも精度良く計測することができます。測りたいのはハブと床面の間の距離ですが、機体に穴を空けるわけにいかないので直接ワイヤを張ることができません。ハブと同じ高さになるようにブレードの代わりに鉄材を取り付けて(ブレードは変形し易いため)、そこにポテンショメータを固定しました。


ポテンショメータから真っ直ぐ下の方向にワイヤを張れるよう、キャビン床面とほぼ同じ高さの機体側面にステップ状の部品を取り付けてワイヤを固定しました。ハブからキャビン床面までの距離が変化すると、ワイヤが伸縮することによってその変形量を計測することできます。


キャビンの天井と床面の間の変形を計測するために、天井部分にポテンショメータを取り付け、床面に固定されているラックの上にワイヤを固定します。機体の傾きを測るための傾斜計も取り付けられています。


機体を地上に置いてある状態では自重を下から支える形になるため、胴体は上下方向に縮んでいますが、飛行中はメインロータに働く空気力によって機体が上から吊り下げられる形になるので、胴体は上下方向に伸びます。今回の試験では、メインロータの部分からクレーンで機体を吊り下げることによって、飛行中の状態を模擬しました。よく見ると機体が10cmほど宙に浮いていることが分かります。


機体の重量が、実際の飛行中とほぼ等しくなるように、乗員の代わりにバラスト(おもり)を積みました。座席の下に見える黄色い袋です。

試験の結果、変形量は、(1)ハブからキャビン床面までが数mm程度、(2)キャビンの天井から床面までが1mm以下、という結果でした。つまり、全体の変形量のうち、キャビン部分の変形量が占める割合は小さいという結果になりました。天井とハブの間には、ギアボックス(エンジンの回転をメインロータに伝えるためのもの)とロータのシャフトがあるだけで、これらの構造はキャビンに比べて非常に頑丈なので、変形のほとんどはキャビンで発生すると予想していましたが、逆の結果になりました。機体の変形は、上下に伸びるだけではなく、前後に曲がったり、複雑な形状に変形したりするため、今回計測した点についてはキャビン天井から床面の変形量が小さくなった(他の点で計測するともっと変形している可能性もある)と考えられます。飛行中にブレード翼端の位置をキャビン内からカメラで撮影して計測する試験では、今回変形量を計測したラックの上にカメラを搭載することを予定しているため、少なくともこの位置では機体の変形量が試験の実施に影響ない範囲であることを確認することができました。実際に飛行中にブレード翼端の位置を計測する試験は来年度以降に実施する予定です。

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