COLUMNコラム

2021.1.22

世界最速の複合ヘリコプターの開発を目指す

時速500km

ヘリコプターは垂直離着陸が可能で、空中停止(ホバリング)もできる飛行特性を生かして、人員輸送や救難救急、防災、報道など広く使われており、国土の狭い日本では固定翼の飛行機とほぼ同じ数の約800機以上の民間用ヘリコプターが運用されている。しかし在来ヘリコプターの主流となる設計は機体上部の大きなメインロータ(回転翼)と機体の向きを維持する尾部のテールロータとの組み合わせであり、前進飛行に必要な推力はメインロータを傾けて発生させているため、どうしても最大飛行速度に限界があり、比較的に速い機体でも150ノット(時速約278km)程度が限界である。

JAXAでは効率的な高速ヘリコプターの開発と欧米の同種類の開発中の機体よりも高速な時速500kmを目指して、主翼の両端に電動駆動のアンチトルク用のプロペラを取り付けた独自概念の機体を提案している(写真1)。アンチトルクとはメインローターの回転の反作用で機体が逆回転するのを防ぐ力で、必要な最大のパワーはメインロータの約一割で済むため、軽量で小さなモータとプロペラで十分である。ドライブシャフトを両方の主翼に沿って配置する必要もないので、在来のヘリと比べて、機構の複雑さを大きく増やすことはない。高速前進飛行に必要な推進用プロペラは尾部に取り付け、在来のヘリコプターのテールロータと同じ駆動方式で実現可能である。

機体を水平維持

飛行に関しては、在来ヘリはメインロータの回転面を前方に傾けて推進力を得るため、胴体も前のめりになり、前面抵抗面積が増えてしまうが、JAXAが提案している複合ヘリコプターはメインロータを機体の姿勢維持に主に用いるため、機体の姿勢をほぼ水平に維持したまま、効率的な高速飛行が可能である。さらに、メインロータの飛行条件も在来ヘリと大きく異なるため、メインロータの飛行方向と逆に回転している後退側での逆流領域が大きくなっても、ロータの抵抗が低くなるように、最適なロータ・ブレード形状を設計し、特許も取得している。また、ホバリング時は主翼に設けたフラップを下げて、ロータの吹き下ろし風が主翼にあたって生じる下向きの抵抗を極力下げ、(写真1)。高速前進飛行時はフラップを上げるよう作動する(写真2)。さらに、実機への適用に際しては、ロータのハブ部分の空力抵抗を下げるために、ハブにフェアリングもつける予定である。

実用化に照準

JAXAは2014年からこうした高速ヘリコプターの概念検討を始め、ロータと主翼の干渉など、この種の機体に生じる独特の技術課題の研究に取り組み、2020年度からは効率的なメインロータブレードの設計と実用化に向けた設計技術に研究開発のターゲットを絞り込んで、航空機製造メーカとも共同研究を進めている。将来的にはこれらのメーカに技術移転を行い、実機開発に結び付くことを目指している。

JAXAが提案している高速ヘリコプターの概念模型機

写真1:JAXAが提案している高速ヘリコプターの概念模型機

高速ヘリコプター概念模型機の飛行試験

写真2:高速ヘリコプター概念模型機の飛行試験

高速ヘリコプター概念模型機の飛行試験動画

※本コラムは2020年9月時点の情報となります。

JAXAは宇宙開発以外に、航空機の先端技術研究も実施している。世界一高速なドクターヘリを開発し、日本全国土を既存の基地病院から15分以内で救急医療が届くようにしていきたい。

航空システム研究ユニット 主幹研究開発員
田辺 安忠

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