COLUMNコラム

2021.1.22

静かに飛ぶ旅客機の実現のために

旅客機の機体騒音低減

旅客機の離着陸による空港周辺騒音は、ジェット旅客機が登場した1950年代後半に比べると大きく低減してきたものの、航空輸送需要の増加により、特に頻繁に離発着が行われる都市圏の空港を中心に今でも重要な技術課題となっています。離陸時の騒音は半世紀にわたるジェットエンジン技術の進歩等によって段階的に静かになってきていますが、旅客機が空港へ低空で進入する着陸進入時の騒音は、1990年代から騒音レベルが下がらず停滞気味です。そこで特に問題となっているものが「機体騒音」と呼ばれる騒音です。機体騒音は、着陸のために展開する高揚力装置(スラットとフラップ)と降着装置(前脚と主脚)の周辺で大きく乱れた気流によって発生する空力騒音(風切り音)が主な騒音源ですが、いずれも安全な着陸に必要な装置であるため、その低騒音化は飛行性能や重量、安全性などと相反しやすく、いまだに研究開発の段階にあります。今後、より静かな旅客機を実現するには低騒音化技術の確立は必須の課題であり、2000年代から航空関係の研究機関、企業、大学が低騒音化の方法と設計に必要な解析技術、試験技術の研究に取り組んできています。

飛行実証

このような背景の下、JAXAでは2005年頃からこの機体騒音の研究に取り組み、2015年からは川崎重工業、住友精密工業、三菱航空機3社とともに共同で機体騒音低減技術の飛行実証プロジェクトFQUROH (フクロウ※) を開始、2019年までに低騒音化の設計基盤となる技術の確立を行いました。プロジェクトでは、JAXAの実験航空機「飛翔」を対象にして、先進的な数値シミュレーションと音響計測を行う風洞試験を組み合わせ、低騒音化のためのフラップ形状と主脚に装着する部品の設計を行い、飛行試験で評価する技術実証を行いました。

実用化に向けて

図は実証試験結果の典型例ですが、過去に行われた欧米の飛行実証と比べフラップと主脚の騒音を大幅に低減できた事を示しています。さらに設計段階と飛行試験それぞれで取得した騒音データは、風洞試験模型のスケール差による違いなどを除けば非常に良く一致していることを確認し、プロジェクトで狙っていた設計の基盤となる解析技術、試験技術を飛行実証によって確立することができました。

現在は、FQUROHの成果を基礎に、旅客機への技術適用に向けて三菱航空機のSpaceJetも対象に研究開発FQUROH+(プラス) を進めています。そこでは、これまで確立してきた主脚とフラップの低騒音化技術の技術成熟とともに、機体の大きな騒音源でありながら飛行性能や機体構造と低騒音化の両立が難しいスラットの低騒音化技術の確立を目指しています。

ベースライン機

ベースライン機

低騒音化改造機

低騒音化改造機

ベースライン機とフラップ・主脚に低騒音化改造を行った機体の騒音源の比較例

Flight Demonstration of Quiet Technology to Reduce Noise from High-lift Configurations

※本コラムは2020年10月時点の情報となります。

1988年東京大学大学院博士課程修了後、航空宇宙技術研究所(現JAXA航空技術部門)に入所。ジェットエンジンおよび航空機の空気力学と騒音の研究に従事。2015~2019年FQUROHのプロジェクトマネージャ。工学博士。

航空技術部門航空システム研究ユニット 特任担当役
山本 一臣

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