COLUMNコラム

2021.1.25

航空機被雷の危険性予測

年数百件発生

宇宙航空研究開発機構(JAXA)では、気象影響防御技術(WEATHER-Eye)の研究開発と題して、航空機運航における気象の影響を軽減するためのさまざまな研究開発を実施している。本稿はその⼀つである被雷危険性予測技術の研究開発について述べる。航空機は、悪天の中を⾶⾏する際に、被雷することがあるのはご存じだろうか。⽇本国内における発⽣件数は、被害の⼤⼩を合わせて、年間数百件であると推算されている。現代の航空機は耐雷性を備えているので、被雷が重⼤事故をもたらす可能性は極めて低いと⾔って良い。

しかし、実際に被雷した場合にはその⾳が機内に響き、乗客の安⼼を損なうだろう。そして着陸後には、機体の安全確認などを⾏うために、しばしば次便の出発に遅れが⽣じる。また、まれにではあるが、⼤きな損傷によって次便の⽋航を余儀なくされることがある。現代の航空機運航では多数の航空機が綿密な計画の下に運⽤されているため、⼀つの遅延や⽋航が、運航全体の効率に⼤きく影響する場合がある。

気象状況を抽出

こういった航空機被雷がもたらす問題については、これまでにも運航関係者の間で認識されていたものの、実効的な対策をとることが難しかった。その理由は、航空機被雷に関する科学的な知⾒が世界的に⾒てもほとんど獲得されていなかったからである。

そこでJAXAでは、実際の航空機被雷事例について正確なデータを収集し、分析することに取り組んだ。その結果、航空機被雷をもたらす特徴的な気象状況を抽出する被雷危険性予測技術の実現性を世界で初めて確認した。被雷危険性予測技術はこれまでに、200程度の航空便のデータにおいて有効性が⽰されており、今後より多くのデータを収集しながら改良を重ねていく。

運航現場で活用

研究開発と並⾏して、JAXAでは、被雷危険性予測技術を早期に社会実装するための取り組みも進めている。これまでに株式会社エムティーアイに対し詳細な技術情報を開⽰し、かつ技術の活⽤⽅法に関するアドバイスを⾏っている。航空機運航の現場に対して効果的に気象情報を提供する基盤を有する同社との協⼒によって、被雷危険性予測技術は早期に航空機運航の現場で活⽤されていくことだろう。また同様の活動は、株式会社ウェザーニューズとも協⼒して⾏っていく予定である。

※本コラムは2020年11月時点の情報となります。

2011年大阪大学大学院工学研究科博士後期課程修了。大阪大学大学院及びコロラド州立大学のポスドクを経て、2012年宇宙航空研究開発機構入構、現在に至る。同機構主任研究員。博士(工学)。

航空技術部門主任研究開発員
吉川 栄一

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