COLUMNコラム

2021.4.1

カプセル、断熱保冷向上

魔法瓶を採⽤

2018年11⽉11⽇、⼀つの⼩さなカプセルが宇宙から地球上に帰還した。カプセルには国際宇宙ステーション(ISS)の貴重な実験サンプルが搭載されており、⼤気圏再突⼊を含む6⽇弱(⾶⾏実績)の期間、サンプルを摂⽒4度付近に温度制御することに成功した。これは⽇本初の快挙で、今までは⽶露に頼るしかなかったサンプル回収を⽇本独⾃に⾏えるようになった瞬間だった。

このカプセルには誰もが1度は使ったことがある⾝近な技術―真空⼆重層(魔法瓶)を使った断熱保冷技術―が採⽤されていた。再突⼊カプセルというと厳しい空⼒加熱を想像される⽅が多いが、外表⾯は熱防護材(アブレータなど)によって保護され、時間も30分以下なので、サンプル保冷の観点では実は⼤きな問題にはならない。

問題はむしろ、ISS内で蓋(ふた)を閉じてから地上で冷蔵庫に⼊れるまでの⻑い保冷期間と、熱を伝える媒体となる空気の存在、そして厳しい空間制約であった。魔法瓶の断熱性能は真空層の厚さによらないので省スペースで⾼い断熱性能が期待できるが、⼀般的な魔法瓶では真空層のない⼝部からほとんどの熱が侵⼊しており、本来のポテンシャルを発揮できていない。

⺠⽣技術活⽤

そこで筆者は、互い違いに魔法瓶を⼆つ重ねる⽅法を考えた。この⽅法なら、⼝部も含めた全⾯を真空断熱できるだけでなく、熱が伝わる経路を遠回りさせることで断熱性能が⾶躍的に向上することを熱解析上でも確認できた。

着⽔衝撃などに耐える構造設計はテクノソルバが、魔法瓶の設計/製造はタイガー魔法瓶が担った。⺠⽣技術を活⽤することでわずか2年間の短期開発が実現し、当初要求(3・5⽇間)を⼤幅に上回る7・9⽇間(試験結果)の保冷性能の実現に成功した。

地上に応⽤

本技術は⼤気中を前提としているので地上でも活⽤でき、保冷剤の種類や量を変えれば保冷温度/期間を含めていろいろなニーズに対応可能である。例えば要冷蔵品を国際輸送する際、国内の冷蔵トラックから⾶⾏機の冷蔵コンテナに移し、現地の冷蔵トラックを⼿配する、という⾯倒な調整をすることなく、段ボールに⼊れて近所の郵便局から発送するだけで済むようになるかもしれない。宛先が砂漠の奥地でも、2週間あれば届くのではないだろうか。そういった地上⽤途へのスピンオフも今後考えていきたい。

ISSからの保冷実験サンプル回収に成功したHTV搭載
小型回収カプセルの外観と断熱保冷容器の内部構造

© JAXA


※本コラムは2021年1月時点の情報となります。

08年から宇宙航空研究開発機構(JAXA)で熱技術の研究開発などに従事。趣味は海外旅⾏やダイビングで、⾒たことがないものを⾒るのが好き。宇宙に⾏きたいので有⼈宇宙船に使える熱技術に⼒を⼊れている。ラジオ好きが転じて夢のパーソナリティーになったことも。

研究開発部門第⼆研究ユニット主任研究開発員
畠中 龍太

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