COLUMNコラム

2021.4.14

SARデータ オンボード処理技術開発

送信量圧縮

合成開⼝レーダー(SAR)とは、⼈⼯衛星で地表を観測する際に使⽤するセンサーの⼀つである。光学センサーが地表を可視光で観測するのに対し、SARは、衛星からレーダー波を発射し画像化可能な反射波を受信するセンサーだ。昼夜・天候を問わず観測でき、差分⼲渉という⽅法で地殻変動などの地表⾯の動きを数センチメートルの精度で捉えることもできるという特徴を有する。

現在、衛星に搭載したSARで得られたデータは、いったん衛星上に蓄積したのち地上に送信して、⽤途に合ったデータへと処理している。しかし軌道上での蓄積と地上への送信量の制約から、データ量が膨⼤となる広い海域の観測は困難だった。

この問題を解決するため宇宙航空研究開発機構(JAXA)では、衛星上、つまりオンボードで画像化を⾏う、SARデータのオンボード処理技術の研究開発を⾏っている。この技術を⽤いることで地上への送信データ量を圧縮できることから、衛星上でのデータ蓄積や地上への送信に余裕が⽣まれ、海域、つまり船舶などの情報も観測可能になり、さらに利⽤者への提供時間の⼤幅短縮にもつながることが期待される。

FPGA使⽤

オンボード処理技術のカギは画像化に使⽤するチップとそのアルゴリズムにある。

宇宙空間では、宇宙線の影響による誤作動が懸念されるため、⾼速作動するチップは使いにくい。そこで今回の技術では、CPU(Central Processing Unit/中央演算処理装置)ではなく、FPGA(Field-Programmable Gate Array)という素⼦を使っている。FPGAは、複数の要素を並⾏して処理できるため、結果的に画像化処理速度が⾼くなるうえ、処理能⼒に対して消費電⼒が⽐較的⼩さいという利点がある。

従来JAXAでは、さまざまなSARの画像化アルゴリズムを開発してきたが、いずれも地上のコンピューター⽤であった。このうちFPGAに適したアルゴリズムを識別し、そのアルゴリズム全体をFPGA⽤に書き換えを⾏い、最適化を⾏った。開発には時間を要したが、結果的には非常に⾼速に画像化処理できる装置を開発することができた。

広がる応⽤範囲

SARデータを軌道上で画像化できると、光学センサーのデータ、つまり写真と同じように扱えることから、軌道上での応⽤範囲がさらに広がる。例えば、海域での船舶検出や、⽕⼭活動監視などへの応⽤が期待できる。オンボード処理技術の進展によって、地球観測衛星の⼀つの新しい可能性を開拓できると確信している。

合成開口レーダ(SAR)データの利用イメージ

合成開口レーダ(SAR)データの利用イメージ
©JAXA

SARデータの軌道上画像化装置

SARデータの軌道上画像化装置
©JAXA/アルウェットテクノロジー株式会社

※本コラムは2021年2月時点の情報となります。

横浜市出⾝、2003年⼊社。以来、通信衛星・地球観測衛星の研究開発に従事。10-11年⽶カリフォルニア⼯科⼤学客員研究員。現在はJAXA研究開発部門研究領域主幹、東京⼯業⼤学特定准教授、Origami/ETS合同会社代表社員。⽇本機械学会展開アンテナ研究会主査、⽶航空宇宙学会準フェロー。

研究開発部門システム技術ユニット研究領域主幹
⼩澤 悟

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