COLUMNコラム

2021.5.17

低ブーム設計技術 超⾳速旅客機、実現目指す

陸上⾶⾏禁⽌

2003年のコンコルド退役とともに世界から超⾳速での旅客⾶⾏が絶えて久しい。なぜ、新しい超⾳速旅客機が現れないのか︖ その要因の中で最も⼤きな課題がソニックブームによる騒⾳である。

ソニックブームは、沖合から成⻑して海岸で砕ける波のように、⾳速よりもはやい速度で⾶⾏する機体のあらゆる部分から発⽣する細かな衝撃波が統合、成⻑した結果、地上に届いた際に落雷のような爆⾳として聞こえる騒⾳である。この騒⾳のため、現在は陸上(居住地域)を超⾳速で⾶⾏することは禁⽌されている。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は衝撃波の統合、成⻑を遅らせることでソニックブームによる騒⾳を弱める機体の設計法(低ブーム設計技術)を開発し、15年にはD-SENDプロジェクトにより機体直下でソニックブームが弱まることを⾶⾏環境下で実証した。

騒⾳基準策定

技術の核となるのは、機体の形状を最適化する技術と機体から発⽣する衝撃波が風の乱れや温度、湿度が変化する⼤気中をどのように伝播し、統合していくかを解析する技術である。それら技術は実証成果とともに国際⺠間航空機関(ICAO)で評価され、陸上超⾳速⾶⾏を認可するためのソニックブームによる騒⾳基準策定の議論が活性化した。

騒⾳基準は超⾳速旅客機が実現するために不可⽋なもので、策定までに残された課題は⼆つ。⼀つは騒⾳規制の観点で、⾶⾏経路に沿って地上では幅60キロメートル以上にも及ぶとされるソニックブームの伝播範囲の全域で騒⾳強度の分布を考慮することである。

もうひとつは航空機製造事業の観点で航空機メーカーが騒⾳基準策定に向けた⾒解を⽰すことであり、そのために⼀般的に低ブーム設計技術を適⽤することにより悪化するとされる巡航性能を確保することである。

実⽤性実証

JAXAでは低ブーム設計技術をさらに進化させ、航空機製造事業、運航事業として成⽴するための目標としてコンコルドよりも巡航性能が⾼く、ソニックブームの伝播範囲で20デシベル以上(100分の1以下でドアノック程度の⾳)騒⾳を下げる設計技術として仕上げつつある。

今後は航空機製造メーカーとともにJAXAの設計技術の実⽤性を⾶⾏実証することで、航空輸送のブレークスルーとして超⾳速旅客機の実現を目指す⽅針である。

JAXAが構想している超⾳速旅客機。胴体下⾯のくびれやエンジン排気を遮蔽(しゃへい)するフィンなどの⼯夫により、通常は100デシベルを超えるソニックブーム騒⾳を85デシベル(100分の1程度)に抑え、なおかつ巡航性能はコンコルドよりも⾼い


※本コラムは2021年3月時点の情報となります。

01年航空宇宙技術研究所(現JAXA航空技術部門)に⼊所。超⾳速機の推進空⼒技術の研究に従事。14年から航空および宇宙の戦略部門を経て20年から超⾳速機のプロジェクト化を目指す。

航空技術部門 航空システム研究ユニット
渡辺 安

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