COLUMNコラム

2021.6.22

宇宙望遠鏡の⼤⼝径化

進化の転換期

宇宙空間で使⽤される望遠鏡と聞くと、多くの⽅々はハッブル宇宙望遠鏡を思い浮かべるのではないだろうか。半⾯、それ以外の何か具体的な例はなかなか難しいかもしれない。望遠鏡が特殊な⼯業製品であるゆえんかもしれないが、ハッブル以降も宇宙望遠鏡に関わる技術は継続的に進化している。

現在、宇宙望遠鏡の進化は⼀つの転換期を迎えている。望遠鏡の主要な性能である空間分解能の向上に必要な⼤⼝径化には、分割望遠鏡の技術開発が必須となる。

分割望遠鏡とは、望遠鏡で最も⼨法が⼤きい主鏡を複数枚の鏡で構成し、1枚の反射鏡として機能させる望遠鏡である。地上の望遠鏡では、ケック望遠鏡以降の⼤型望遠鏡計画では主流の⽅式であるが、宇宙望遠鏡としては今年打ち上げが予定されているジェームス・ウェッブ宇宙望遠鏡が初の事例となる。

地球観測へ適⽤

⼤⼝径の分割望遠鏡の構築において重要なのは、軽量でかつ打ち上げの厳しい振動環境に耐えるために⽐剛性(剛性と質量の⽐)を⾼めつつ、宇宙空間の熱環境で変形しない反射鏡を製造する技術である。わずかな反射鏡の熱変形が観測画像の品質に悪影響を及ぼす。さらにこの複数枚の望遠鏡を、サブミクロン(1万分の1ミリメートル)オーダーで精密に制御する制御部の開発も必須である。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)では、静⽌軌道から地球を観測する将来の光学衛星に分割望遠鏡を搭載することを⽬指して研究を進めている。これは同じく静⽌軌道にある気象衛星「ひまわり」と同様の即時観測(時間的特⻑)と10メートル以下の地表⾯分解能(空間的特⻑)を両⽴する光学衛星計画で、防災・減災などの社会課題を解決するための観測網の構築など、従来にない新たな地球観測衛星の利⽤を⽣み出すことが期待される衛星計画である。

宇宙利⽤拡⼤

これまでJAXAでは、静⽌光学衛星に適した反射鏡の⺟材(鏡⾯を形成するための⼟台となる構造体)について研究を⾏い、セラミックスの⼀種であるコーディエライトを最適な材料として選択した。コーディエライトは精密測定の基準器⽤材料として採⽤されている⼨法安定性の⾼い材料である。JAXAでは、過去に⼤型の低熱膨張定盤を製作しており、その製作過程で反射鏡への応⽤を着想した。これまでに、0.3メートル級、0.7メートル級の反射鏡を試作し、現在は1.3メートル級の六⾓形形状の反射鏡を試作している最中である。

⼤型望遠鏡の技術は今後の新たな地球観測衛星の利⽤のみならず、宇宙利⽤の拡⼤や科学技術の発展に⼤きく寄与する可能性を秘めている。今後の展開にご注⽬いただきたい。

コーディエライト製軽量分割鏡

コーディエライト製軽量分割鏡

© JAXA

※本コラムは2021年4月時点の情報となります。

2005年東京⼤学⼤学院新領域創成科学研究科博⼠後期課程修了。博⼠(科学)。同研究科助教、Fraunhofer、AIRBUSを経て、10年⼊社。宇宙機の構造系に関わる研究開発などに従事。

研究開発部⾨ 第⼆研究ユニット
研究領域主幹 ⽔⾕ 忠均

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