COLUMNコラム

2021.12.21

宇宙機内をワイヤレス化

大きなメリット

現在の衛星質量の数~十数%は通信や電力を供給するためのケーブルが占めている。有線で接続されている機器をワイヤレス化することができれば、送受信部が必要になるというデメリットはあるものの、衛星全体として質量低減のメリットが期待できる。また、衛星搭載機器は一度打ち上げられるとそれ以降の機器の配置変更や機能変更は一般的に不可能であるが、ワイヤレス技術を適用することにより故障した機器の置き換えやユーザー要求変更への対応など、多くの可能性も出てくる。

また、軌道上のみならず地上試験においても、ケーブルの取り付け取り外しは多くの時間とコストがかかる作業なので、ワイヤレス化によりその作業を低減できるのは宇宙機開発としてはとても大きなメリットとなる。

厳しい宇宙空間

地上では当たり前のように利用されているワイヤレス技術であるが宇宙機において利用されている例はまだ少ない。ではなぜワイヤレスの技術が宇宙機内でまだ一般的に利用されていないのであろうか。まず、宇宙空間では地上の環境とは比較にならない程厳しい環境(振動、熱、放射線など)にあり、それに耐えうる機器の開発が必要である。また、衛星やロケットは金属に囲まれた閉鎖空間であり、通信および電力伝送の電波を多重に反射し、信号の受信に問題が起きやすい環境にあるためその対策も必要となる。

さらに、宇宙機内は多くの機器が密集して搭載される環境であり、ワイヤレス化することによる他の機器への影響も回避する必要がある。通信と電力両方のワイヤレス化を実現するために相互の干渉回避についても対策が必要となる。

軌道上実証

宇宙航空研究開発機構(JAXA)では与干渉、被干渉に強いIR-UWB(Impulse Radio Ultra Wideband︓非常に広い周波数帯域を使いかつ弱い電波で通信が可能な方式)という通信方式を用いた通信機器の開発を進めており、2023-24年にかけて実衛星に搭載して軌道上でワイヤレス通信の概念実証をすることを計画している。実証においては主に変調方式やパルス周期による通信への影響を確認し、その結果をもとに将来的なより広範囲な宇宙機内のワイヤレス化に向けたデータを取得する計画である。これらの実証を通して宇宙機内のワイヤレス化を進め、衛星設計思想そのものを変える技術として検討を進めたい。

過去の衛星の熱構造モデル内での実験風景

© JAXA

※本コラムは2021年9月時点の情報となります。

北海道出身。07年入社。通信機や増幅器など、衛星搭載通信機器の研究開発、衛星通信システム検討に従事。15年欧州宇宙機関(ESA)研究員。現在は次世代通信衛星に向けた機器の開発、将来衛星通信システムの検討を進めている。理学博士。

研究開発部門 第一研究ユニット
主任研究開発員
粟野 穰太

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