COLUMNコラム

2022.3.3

MBSE 衛星開発を成功に導く

曖昧さなくす

近年、自動車産業など国内外の製造業では、実際のシステムと同様の挙動を行うように作成したモデルを用いてコンピューター上で設計検証などを行い、システム開発するモデルベース開発(MBD)という技術の普及が加速している。

さらに広義の概念として、モデルを活用しながら、システムの要求や目的を分析し、それをシステムの動作(振る舞い)や構成要素へ分解、それら情報の複雑な関連を構造化していくことで、SEプロセスを実行するモデルベースシステムズエンジニアリング(MBSE)がある。

MBSEでは、モデルにより、さまざまな分野にまたがる関係者間の情報伝達上の曖昧さをなくすとともに、モデルから情報を抽出・活用することで、検証やシミュレーションを容易にし、QCD(品質・コスト・納期)の向上が図られることとなる。

前提が影響

宇宙航空研究開発機構(JAXA)においても、これまでさまざまなMBSE活動に取り組んできたが、MBSEを開発業務に効果的に取り入れることは容易ではない。エレクトロニクス、メカニクス、ソフトウエアなどのさまざまな分野の情報を横断的に扱う必要があり、エンジニア、開発プロセス、組織文化、ツールなどの開発環境など、幅広い前提がその活動に影響を及ぼすためである。

例えば、過去に衛星システムを対象として、そのユーザー指向性を高めるため、運用シナリオに焦点を当てたモデリングを試行した。しかし、モデルの規模は膨大なものとなり、その妥当性を確認・メンテナンスすることが極めて困難な状況に陥った。このような経験を元に、どうすれば開発を効果的・効率的にする、目的に適合したモデリングを行うことができるかという研究に取り組んでいる。

開発工程変革

小型実証衛星3号機イメージ

図1 小型実証衛星3号機イメージ

現在JAXAで開発中の革新的衛星技術実証3号機の小型実証衛星3号機に搭載される実証機器の一つの開発において、企業と共同でSysMLというモデリング言語を使用したMBSEの実証に取り組んでいる。従来の自然言語記述ベースの開発を進めつつ、並行して研究結果を用いたモデル化を実践している。

今後は、システムの要求変更時に設計に影響が及ぶ範囲において識別される工数の比較など、有効性評価を実施する予定である。このような実証を踏まえつつ、プロジェクトの成功に向け、宇宙機システムの開発プロセスの変革を図っていきたい。


SysMLによるモデル

図2 SysMLによるモデル © JAXA


※本コラムは2021年11月時点の情報となります。

05年入社。10年より宇宙機搭載ソフトウエアのIV&V(独立検証・有効性確認)技術、ナレッジエンジニアリング、論理故障解析技術などの研究開発に従事。現在は、主任研究開発員として、モデルベースシステムズエンジニアリングの研究開発に従事。

研究開発部門 第三研究ユニット 主任研究開発員
梅田浩貴

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