COLUMNコラム

2022.8.25

LNG推進系 燃費高める

優れた安全性

ロケットの液体燃料には液化水素や石油系燃料であるケロシンなどが使われている。液化天然ガス(Liquified Natural Gas:LNG)は、液化水素と比べて宇宙空間での貯蔵性に優れるほか、漏えいや爆発の危険性が低いことから安全性などの面で優れている。また、ケロシンと比べて燃費に相当する性能(比推力)に優れる。

このためLNGを燃料とするLNG推進系(エンジン)は将来のロケットや軌道間輸送機などでの利用が見込まれ、2000年ごろから米国や欧州などにて研究開発が行われている。

日本でも2003年からLNG推進系の本格的な研究開発を開始し、2009年には世界で初めてLNG推進系の開発を完成できる目途が得られる段階になった。基盤技術を獲得した後は主に燃費性能を向上させる研究を進めている。

15%性能向上

燃費性能を良くするためには燃料と酸素をよく混ぜ合わせて燃焼させる必要がある。2012年頃までは極低温であるLNGと液化酸素を燃焼室に噴射して燃焼させる方式であったが、混合促進のために、燃焼ガスによって熱せられる燃焼室の壁の内部に設けた多数の溝の中にLNGを流すことによって約マイナス160℃のLNGを昇温し、ガス状態にして燃焼室に噴射する方式に変更した。

溝の中に低温のLNGを流すことは燃焼室が高温の燃焼ガスによって溶損しないように冷却する役割もあり、燃焼室の寿命向上にも貢献する。燃料の昇温と燃焼室の冷却をバランス良く両立させることが肝要である。

LNG推進系の主要部品である燃焼室などについて改良を施した試作試験を段階的に進め、2019年には2009年時点に比べて約15%向上した燃費性能を実証した。これはLNG推進系について世界トップレベルの性能を発揮する設計技術を獲得したことを意味しており、既に実用化されている液化水素を燃料とする推進系とほぼ同じ技術レベルと言える。

実用化に貢献

2022年現在、LNG推進系は革新的将来宇宙輸送システムの実現にむけた推進系技術の候補の例に挙げられるほか、日本のスタートアップ企業による宇宙機への適用も計画されている。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は共同研究や事業コンセプト共創に関する覚書に基づき企業などへの技術支援を実施している。本取り組みを通して日本におけるLNG推進系の実用化の推進に貢献していきたい。

設計改良品の試作試験の様子

© JAXA

※本コラムは2022年2月時点の情報となります。

佐賀県出身。1991年JAXAの前身の一つである宇宙開発事業団に入社。H2Aロケット及びその第一段エンジンの開発、H3ロケット第二段エンジンの開発、LNG推進系の研究等に従事。

研究開発部門 第四研究ユニット 研究領域上席
南里秀明

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