COLUMNコラム

2022.11.4

空気再生技術で酸素循環

生命維持

温度、圧力、酸素(O2)、水など、人間の生命活動に必要な環境上の条件は、地上では地球がその制御の多くを担っている。一方、国際宇宙ステーション(ISS)や宇宙船といった有人宇宙用の閉鎖環境下では、すべてを人為的に制御する「環境制御・生命維持技術(Environmental Control & Life Support Systems = ECLSS)」が必須だ。

様々な機能が要求されるECLSSの中で、将来技術として確立が期待されているのが、クルーの生存に欠かせないO2を、現在のように地上からの補給に頼らず、人体より排出される二酸化炭素(CO2)の化学変換で得る「循環型空気再生技術」である(図参照)。この手法は主に、① 船内などの空気からのCO2の分離回収、② 水の電気分解でのO2供給、③ 過程①で回収されたCO2を過程②で発生したH2によって還元することによる水生成(得られた水は②で使用)の3過程から成る。このうち過程③は、特に将来の火星探査など、地球からの補給が困難になる場所で水を生成し、「酸素(物質)循環」を成立させる重要な役割を持つ。なお余談だが、特に期間と船内容積の限られるミッションでは、植物による空気再生=光合成の利用は現実的ではない。

触媒応用研究

宇宙利用では、システムの性能はもとより、電力や設置スペース、微小重力下という宇宙環境特有の課題が数多くある。そこでJAXAでは、これらの課題解決に向けた各技術の要素研究に取り組んでいる。

例えば過程①では、高純度CO2分離を阻害する空気中の水蒸気(湿分)に対し、CO2を吸収しない新たな除湿剤や、逆に水蒸気共存下でCO2だけを吸収する化合物の探索を行っている。過程③では、産学連携を通して従来よりも低温で高い触媒活性を示す触媒の応用研究を実施中である。

デュアルユース

空気再生技術の要素は、いずれも地上での国連の持続可能な開発目標(SDGs)関連技術と非常に親和性が高い。例えば、CO2還元と水電解の間で熱の授受を行うことで、系全体のエネルギー利用効率の向上を目指したハイブリッド化は、2022年度より新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)グリーンイノベーション基金事業の採択研究で社会実装に向けた研究を進めることが決定している。このように、宇宙用としてスタートした技術を、最終的には地上と宇宙のデュアルユースで展開することで、将来の社会貢献につなげていきたい。

循環型空気再生システムの模式図(©JAXA)

※本コラムは2022年7月時点の情報となります。

富山県出身。2009年大阪⼤学⼤学院基礎工学研究科博⼠後期課程修了、博士(理学)。同年JAXA入職。以来、将来有人宇宙用の空気再生技術の研究において、主にCO2の水素還元触媒に関する研究に従事。宇宙で快適な生活を送るための技術は、いつか社会の役に立つと思っている。

研究開発部門 第二研究ユニット主任研究開発員
島 明日香

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