COLUMNコラム

2022.11.18

宇宙用MPU 高性能・省エネ化

SOIとSoC

宇宙用マイクロプロセッサー(MPU)は宇宙機の制御や情報処理を担う、わが国の自在で自律的な宇宙活動に不可欠な部品である。宇宙用MPUには民生MPUと異なり放射線耐性が必須である。また、惑星探査やコンステレーション航行など宇宙機の高度化・多様化が進んでおり、いっそうの高機能/高性能化と低消費電力化が求められている。このため、JAXAでは、放射線耐性を高めるSOI(Silicon on Insulator)技術と、複数の機能を一つのチップに搭載するSoC(System on Chip)技術を活用した宇宙用MPUを開発している。SOI技術やSoC技術は低消費電力化と小型化にも大きく貢献することができる。

RTOS開発

MPUを利用するユーザーが、高機能・複雑化する宇宙機用MPUを意識せずに宇宙機の制御などを行うソフトウエア開発を容易に行えるようにするために、信頼性の高いリアルタイムオペレーティングシステム(RTOS)の開発も同時に進めている。宇宙機用RTOSは、機能面において、地上用の家電や電子機器などでも広く利用されているμITRON4.0という仕様をベースに、メモリ保護機能や時間保護機能などの保護機能を有している。また、品質面においては、JAXAがRTOSの検証方法をまとめた「リアルタイムOS高信頼化ハンドブック」に基づく技法を用いて検証することで品質を確保している。

各種産業に適用

MPU開発中には、部品の供給不足などの影響を受け、開発が滞る事態も発生した。しかし、関係者が世界トップレベルの純国産MPU実現に向け熱意を持って取り組んだこともあり、2019年度末にMPUの試作品の製造を完了し、21年度までに電気性能および機能の品質評価と耐宇宙環境性能の信頼性評価を行った。22年度から最終形態品の製造および開発確認試験を実施し、23年度中の開発完了および宇宙用部品認定取得に向けて開発を進めている。また、開発と並行して、22年10月に打ち上げ予定の小型実証衛星3号機に本MPUを搭載して、宇宙空間での放射線耐性の確認およびRTOSの軌道上実証を行う予定である。今後、純国産のMPUおよびRTOSを宇宙開発のみならず衛星をノードとするIoT(モノのインターネット)ネットワークを利用する各種産業へ適用できるよう取り組んでいきたい。

SOI-SoC MPU試作品(蓋取り付け前)

© JAXA

※本コラムは2022年8月時点の情報となります。

NEC通信システムにてRTOSおよび組込系ソフトウエアの開発に従事。20年2月より現職。宇宙用のMPU開発の中で、主にMPU上で動作するRTOSの開発に取り組んでいる。

研究開発部門 第一研究ユニット 主任開発研究員
長山 卓也

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