COLUMNコラム

2022.12.7

飛行機のバリアフリー化

負担解消 急ぐ

バリアフリーの実現には過去より不断の努力が続けられてきたが、近年ではアクセシビリティー(利用しやすさ)、インクルーシブ(包摂的)という言葉も使われるようになり、障がい者や高齢者を含む、多様な人々が生きやすい社会を実現しようという流れが加速している。飛行機も例外ではなく、全ての人々にとって利用しやすい交通輸送であることが望まれている。
飛行機のフライト中の環境は地上と大きく異なる。揺れや騒音があり、気圧が低く、乾燥した特殊な環境であることに加え、座席、通路、化粧室は狭い。そのような空間で長時間過ごすのは健常者でも疲れるのに、体質、体格、疾患、障がいといった点で特性を持つ人の肉体的、精神的負担はなおさら大きく、その解消が急がれる。

快適な客室示す

揺れや騒音の低減はこれまでもJAXAで取り組んでいる。一方筆者らは、客室設備のバリアフリー化に着目した。客室設備には座席、化粧室、手荷物収納棚、ギャレーなどがあり、そのバリアーは障がいや疾患の状態ごと、また搭乗、食事、お手洗い、就寝といった場面ごとに異なる。
バリアーの調査をもとに、全ての人々にとって快適な客室の姿かたちを提示し、それを実現できる客室設備の研究開発を行う。とはいえ、実現には航空安全規制への適合と、軽量化および省スペース化も必要であり、技術と知恵が要求されるチャレンジングな課題である。

車いす固定

既存の客室設備のバリアフリー化だけでなく、車いすに座ったままでフライトを可能にするという、新しい仕組みの提案も進めている。これは車いす利用者が飛行機利用をする際の移乗の負担、車いすの破損や紛失のリスク、座位保持性といった課題を解消する。実現のためにJAXAができることは、航空安全規制や航空会社の運用も考慮して実現性の高い姿かたちを提示し、それが技術的に成立すると示すことである。
自動車業界を見ると、現在、車いすをワンタッチで確実に固定できるシステムの普及活動が進められており、また国際標準化機構(ISO)規格化検討も推進されている。飛行機客室での車いす固定についても、共通のシステムとする前提で研究開発を進めている。これにより、自動車でも飛行機でも利用できる利便性の高い車いすが可能となり、普及が期待できる。

研究チームメンバー。調布飛行場分室にて

© JAXA

※本コラムは2022年10月時点の情報となります。

石油元売を経て2014年JAXA入所。複合材機体構造の軽量化に関する研究に従事。2016-2018年三菱航空機に出向しMRJ開発に従事。専門は接着接合、破壊力学、複合材。博士(工学)。

航空技術部門 基盤技術研究ユニット 主任研究開発員
安岡 哲夫

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