COLUMNコラム

2022.12.22

宇宙太陽光発電の課題解決

無線でエネルギー伝送

宇宙太陽光発電システム(SSPS=Space Solar Power Systems)は、宇宙空間にとても大きな太陽光発電所を構築して、そこで発電した電気を無線で地上の受電設備に送り、私たちの生活の電気として利用するという未来の発電システムである。クリーンなエネルギーを大規模に、安定的に、多地点に供給し、エネルギー、気候変動、環境などの人類が直面する地球規模課題の解決に寄与する可能性を秘めている。
SSPSの実現には、高効率で安全な発電・送電・受電、大型宇宙構造物の構築・制御・保守、宇宙空間への低コスト大量輸送など、多くの課題を解決する必要がある。

超大型人工衛星

JAXAのSSPS研究チームでは、これらの課題を解決する技術のうち、SSPSの中枢的な技術として、無線エネルギー伝送技術、大型宇宙構造物の構築技術(デブリ対策も含む)、高効率太陽電池技術に関する研究を最優先で進めている。また、SSPSの研究は長期間にわたるため、途中段階の研究成果も社会に役立てることを目指し、移動体への無線エネルギー給電や大型宇宙レーダーなどの実現を検討している。
SSPSは一つの人工衛星で1ギガワット(100万キロワット)の電力を得ることを想定して検討しており、そのためには高度3万6000キロメートル上空の宇宙空間に約2キロメートル四方のとても大きな人工衛星を作る必要がある。JAXAのSSPS研究チームでは、大型宇宙構造物の構築技術の研究を段階的に進めており、30メートル級(30×30メートル)の大型平面アンテナの実現を当面の目標としている。

展開型アンテナ

現在、この目標に向けた宇宙実験として、展開型軽量平面アンテナの軌道上実証(DELIGHT=Deployable LIGHtweight planar antenna Technology demonstration)を計画しており、実証システムの開発を行っている。DELIGHTでは、新型宇宙ステーション補給機HTV-Xの1号機を宇宙実験の場として利用し、新たに考案したパネル展開・結合機構を用いてパネルを軌道上で展開し、展開中の挙動や展開後の構造特性を計測する。
また、パネルの一部に搭載した膜構造の軽量平面アンテナでの電波受信レベルの計測や、次世代の宇宙用太陽電池セルの検証も行う。この実証を通じてSSPSの研究開発を着実に前進させたい。

DELIGHTのエンジニアリングモデル

© JAXA

※本コラムは2022年10月時点の情報となります。

熊本県出身。2005年入社。衛星地上局の運用・開発に従事したのち、2009年10月からSSPSの研究開発に従事。大型宇宙構造物構築技術やマイクロ波無線エネルギー伝送技術の研究を担当。

研究開発部門 第二研究ユニット SSPS研究チーム 主任研究開発員
上土井 大助

東京都出身。2002年から宇宙機へのデブリ衝突検出システムの研究、2008年から小型ソーラー電力セイル実証機IKAROSで薄膜太陽電池の開発・運用に従事。2018年からSSPSのマイクロ波無線エネルギー伝送技術の研究、総合検討委員会などを担当。

研究開発部門 第一研究ユニット SSPS研究チーム 研究開発員
相馬 央令子

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