宇宙航空研究開発機構

実験用航空機「飛翔」による機体の飛行特性の取得飛行@石垣島

【飛行特性の取得飛行~静的および動的空力特性の取得~】

平成28年(2016年)6月16日~21日に、JAXAの実験用航空機「飛翔」を使って、"静的および動的空力特性の取得"を目的とした飛行試験を、沖縄県石垣島東方海上に設定した試験空域で行いました。


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【この試験の目的と背景】

現在の飛行機の開発過程では、開発した飛行機がどんな性能で飛び、どんな飛び方をするのかを予測して開発されています。この時に、地上試験(風洞試験と数値シミュレーション)で得られたデータや過去に開発された機体から得られたデータを用いますが、設計された飛行機が予測通りの性能を持っているのか、予測通りの飛び方をするのかは最終的に飛んで確認する必要があります。
もし、予測と違いが有れば、機体の設計も改善しなければなりませんし、次の機体を開発するために地上試験の予測手法も改善しなければなりません。ただし、飛行機開発における飛行試験は性能や飛び方を確認するためだけのものでは無く、安全性や搭載機器の性能等、多くの項目を確認する必要があるため、機体自体の性能を確かめるためだけに多くの時間を割くことはできません。これまで、性能を確かめるための飛行試験は本質的に精度が悪く、時間のかかるものとされてきましたが、今回の飛行試験は効率良い試験で飛行試験の精度を改善することを目的として行いました。


【JAXA航空技術部門の技術力・設備による試験飛行】

飛行試験の結果を風洞試験と比較しようと思えば、飛行試験でも地上試験と同じぐらいの精度のデータを取得しないと、飛行試験データのばらつきに埋もれて地上試験との差の議論などできなくなってしまいます。地上試験の一種である風洞試験を色々な風洞で行うと、同じ機体の試験を同じ風洞試験模型を使って行った場合には、風洞ごとの違いは0.3~0.5%ぐらいであることが私たちの研究で明らかにされています。
ところが、単純に飛行試験から飛行機の性能を算出すると、必要な精度の10倍ものばらつきを持ってしまうことがあります。単純な平均をしてばらつきを押しつぶすという方法もありますが、平均という操作は実はある種の誤差に弱いという性質を持っているため、事前にばらつきの要因を取り除いておかないと間違った情報を得てしまう可能性があります。

この研究では、ばらつきを「取り除けるばらつき」と「取り除けないばらつき」に分け、「取り除けるばらつき」をデータ処理技術を用いて抽出することで、ばらつきの影響を抑制することを目標にしています。さらに、ウェーブレット解析という技術を使い、自動的に誤差の少ない区間を抽出して解析を行う技術の開発も行いました。


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「飛翔」から見た石垣島とサンゴ礁


今回の飛行試験では、JAXAの保有する実験用航空機「飛翔」を用いて試験を行いました。この機体はビジネスジェット機を改修したもので、ジェット旅客機が巡航する高速でのデータを取得することが可能です。この機体が飛んでいる時の空気の状態を計測するエアデータセンサーという計測装置を2015年に装備したため、その性能を確認するためにも、たくさんのデータを取得する必要があります。

【何故、石垣島なのか?】

高速の飛行機は短い時間で飛んでしまう距離が長いので、飛行機の性質を調べる飛行試験では広い高度範囲と長い直線飛行を可能とする空の領域(空域)が必要になります。また、大量のデータを取得する試験では他機関と重ならないまとまった試験日程を確保することも重要です。 そこで、今回の飛行試験では新たに既存の航空路や自衛隊・米軍の訓練空域と重ならない新たな空域を石垣島の南東に設定しました。


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※.上図の星印★のあたりで試験を行いました。


石垣島を選んだ理由は、計画された飛行試験の時期(6月下旬)に梅雨が明けていて、気象の影響を受けずにまとまった試験を行えるからです。飛行試験空域は関係諸機関の協力の下に成立しており、そのような調整作業もJAXAの業務を成立させる重要な仕事です。もちろん、JAXAの拠点から遠く離れた場所での試験ですから、機体整備や現地の空港との調整、試験計画なども抜かりなく行う必要が有ります。丁寧な準備のおかげで、今回の飛行試験では連続した日程で予定通り広い範囲のデータを取得し、成功裏に試験を完了することができました。

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試験中の飛翔機内の様子


【今回の試験でこれからできるようになること】

この飛行試験で開発している技術が実現すると、まず飛行試験と地上試験の差を理論的に意味のある形で議論することができるようになります。また、データ処理を行う範囲を自動的に抽出する技術が完成すれば、今回のように特別に計画した飛行試験を行わなくても、別の目的の飛行試験データから性能の情報を得られるようになります。よって、飛行機の設計を改善するために使用できるデータを効率良く取得できるようになることが期待されます。

※.試験で取得したデータを使用する研究の一部は「平成27年度科研費(基盤研究(C))15K06612 飛行機の高精度な静的空力特性推定を可能にする飛行試験データ処理手法の研究」による研究費の助成を受けて行っております。



【新入職員OJT研修】

今回の試験には、「新入職員OJT研修」の一環として新入職員も参加しました。研修の感想を聞きました。

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①.今回の研修で行った業務を教えてください。
計5回のフライトで、飛行試験のログを取る計測員を担当しました。
また、一部のフライトでは、計測の指揮を行う業務も経験しました。

②.今回の研修で行った業務で、達成感を得たのはどのようなところでしたか。
自分が担当したケースが無事に完了し、"飛翔"が着陸して機体から降りた時には、一つ仕事をこなした感覚がありホッとしました。  

③.今回の経験を、今後の業務でどのように活かしたいですか。
飛行試験一つとっても、JAXAの研究者だけでなく、航空機の操縦や整備、管制、計測機器の準備や計測結果のデータ処理など、数多くの人の仕事の重ね合わせで成り立っていることを現場の中で体感しました。私の現在の業務も多くの方の協力、つながりを必要としているものです。今回の経験を経て、自分の分野では自分が中心に立って関係者をつなぎ、最大限の成果を導けるように活躍していきたいと感じました。

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