次世代吸音ライナ技術の研究開発(ALPHA)
航空機用エンジンでは、ファンや圧縮機などから発生する騒音を低減するために、吸音ライナが用いられています。
吸音ライナは、孔あき表面板とハニカムコアで構成されており、穴と背後の空間によってヘルムホルツ共鳴器が形成され、共鳴現象を利用して騒音を低減します(図1.1)。吸音ライナは、エンジンナセル内側およびエンジン本体の一部に取り付けられ、ファンや圧縮機の騒音低減に用いられています(図1.2)。
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図1.1 吸音ライナの構造
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図1.2 航空エンジンへの吸音ライナ適用箇所
近年のエンジン開発では、エンジンの効率を向上させるために、ファン径(バイパス比)の拡大が進んでいます。また、巡航時の抵抗を減らすため、ナセルを縮小する傾向があります(図1.3)。 このナセル縮小化は、吸音ライナが施工できるエリアの減少に直結します。このため、従来通りの吸音性能を維持するためには、ライナの単位面積あたりの吸音性能向上が必要となります。本研究ではライナの吸音性能を向上させる技術開発に取り組みました。
図1.3 エンジン開発の傾向
課題と解決手段
従来の孔あき表面板を用いた吸音ライナは、図2.1に示すとおり、高速流れにおいて吸音性能が低下する課題がありました。 このメカニズムをシミュレーションで解析した結果、静止気流下では、図2.2のように孔内部の空気が音波によって上下に振動し、音響エネルギを熱エネルギへと変換し高い吸音効果を発揮することが確認されました。 一方、マッハ数0.3の高速流れでは、図2.3に示すように孔部分の流れに偏りが生じ、空気の上下振動が弱まり、これが吸音性能の低下を招くことが明らかとなりました。
図2.1 流速によるライナの吸音性能
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図2.2 解析結果(従来ライナ、流れなし)
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図2.3 解析結果(従来ライナ、高速流れ(M=0.3))
我々は微細多孔フィルム(Fine Perforated Film;FPF)という薄い金属フィルムに着目し、新しい構造のライナを考案しました(図2.4)。 孔あき表面板の上に隙間とフィルムを設けることで、図2.5のように高速流れにおいても孔部の上下振動が保持され、高い吸音性能を実現できることがわかりました。
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図2.4 新たに考案したライナ構造
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図2.5 解析結果(考案ライナ、高速流れ(M=0.3))
図2.6では、マッハ数M=0.3における吸音性能を表しています。孔あき表面板に直接フィルムを貼ることで吸音性能が向上し、孔あき表面板とフィルムの間に隙間を設けることでさらに性能が向上しています。
図2.6 マッハ数M=0.3における各ライナの吸音性能比較
社会実装にむけて
実用化に向けた取り組みとして、2023年度より国内メーカと共同研究を開始し、ライナの製造方法、構造設計、強度解析などの検討を進めています。 また、技術実証用に小型のターボファンエンジン(図3.1)を導入し、屋外で騒音計測試験を実施するための制御系、計測系などのシステムを構築しました。 2024年には、エンジン入口ダクトに吸音ライナ(図3.2、図3.3)を搭載した屋外エンジン騒音試験(図3.4)を行い、性能評価を行いました。この屋外エンジン騒音試験は朝日航空株式会社および鹿部町役場の協力のもと鹿部飛行場(北海道茅部郡)で行っています。
図3.1 小型ターボファンエンジンと諸元
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図3.2 吸音ライナの搭載箇所
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図3.3 ファン前方に取り付けた吸音ライナ
図3.4 屋外エンジン騒音試験のようす(鹿部飛行場)