FQUROHプロジェクトにおける技術的なアプローチ
FQUROHプロジェクトでは近年、急速に発展してきたLarge Eddy Simulation(LES)を基礎にした先進的なCFDを、従来から使われてきた風洞試験による騒音計測と組み合わせた低騒音化の設計を行います。現状のCFDによる機体騒音の解析は、高い周波数の音を十分に予測できないなど、まだ結果に十分な信頼性は与えてくれていませんが、どのようなメカニズムで騒音が発生するのか、どうすれば発生源となる乱流を減らせるかなど、設計を行うためのガイドとして十分な知識を与えてくれます。一方、風洞試験では高精度な騒音計測ができますが、設備の限界から実機そのもので試験を行うことはできず、小型のスケール模型を使います。その結果、レイノルズ数の違いなど、騒音源の気流が変化し、やはり騒音予測の信頼性が不確実になってきます。FQUROHプロジェクトではこの両者を補完的に活用し、過去の研究から得られた低騒音化コンセプトを実機に効果的に適用する「低騒音化設計」を行います。
それを基に実機を改造し、飛行試験により詳細にその騒音低減効果を計測することで、設計結果と実際の機体での差異を把握します。そして、その原因となる物理現象を詳細に調べることで、実機を使った試験により初めて得られる低騒音化設計の知識を明らかにし、技術の成熟を図ります。それにより、確実に旅客機を低騒音化するための設計技術を獲得していきます。
その目的を実現するには、飛行試験において騒音の変化を分析できるほど精度の高い騒音計測も必要になります。本プロジェクトでは多数のマイクロホンを使ったフェーズド・マイクロホン・アレイによる音源計測技術を使用しました。試験空港に直径30mの範囲に195本のマイクロホンを設置し、その上空を改造した実験機が飛行するタイミングに合わせて計測を行います。その計測結果から、機体の各音源の騒音のレベルが周波数ごとにどのように変化しているかを知ることができます。さらに高精度な飛行経路計測とJAXAの精密誘導システムTunnel-In-the-Skyも組み合わせることで、自然風など気象の影響を受けやすい飛行試験にもかかわらず、高精度な騒音計測を実現することができました。
飛翔のフラップ・主脚の低騒音化設計と機体の改造
これまで開発してきた低騒音化コンセプトに基づき、先進CFDと風洞試験を用いて設計を進めました。フラップには3種類の、主脚には4種類の低騒音化コンセプトを適用しました。

のと里山空港における飛行実証試験
2017年8月に地上滑走で安全性を確認した上で飛行性能を確認する飛行試験を行い、9月に本番の騒音源計測試験を開始しました。滑走路横に、前述した直径30m、195本のマイクで構成されるフェーズド・マイクロホン・アレイを設置して騒音源を計測しました。飛行速度140kt(72m/s)、高度200ft(61m)を基準条件として、飛翔に低騒音化の改造部品を装着した形態と外した形態、飛翔のフラップと主脚の両方を下した飛行形態とフラップまたは脚だけを下ろした飛行形態、そして飛行速度や高度など、飛行の条件を変えながら、3週間にわたり222回の騒音源計測を実施しました。

飛行実証試験の結果、フラップ、主脚ともに3dB(A)以上の低騒音化を実現し、今まで停滞していた着陸進入の騒音を大きく減らす効果を確認しました。設計結果と飛行試験結果の騒音スペクトルは良く一致しており、先進的なCFDと風洞試験を活用した低騒音化設計が非常に有効であることを確認しました。

フラップ、主脚とも大幅な低騒音化が得られている。

フラップ、主脚ともに3dB(A)以上の低騒音化が得られた。
リージョナルジェット機に向けた研究開発
「飛翔」での結果をもとに、より大型のリージョナルジェット機をターゲットにCFDや風洞試験を用いて研究開発を行いました。飛行実証で用いた「飛翔」との大きな違いとして、主翼前縁にあるスラットと呼ばれる高揚力装置があることが挙げられます。そこで、実際のリージョナルジェット機を用いた音源計測やCFD解析、半裁模型を用いた風洞試験を行いました。
スラットにはコーブバンプと呼ばれるふくらみをつけることで渦の成長を抑制し騒音低減を目指すデバイスを設計しました。また、「飛翔」とは形態が異なる主脚については、「飛翔」では考慮できなかった、離着陸時に主脚と一緒に収納展開可能な低騒音化デバイスにするという目標を立てました。「飛翔」で研究開発した低騒音化コンセプトを改良するとともに、新たな低騒音化コンセプトを考案し、リージョナルジェット機にも対応した騒音低減を目指しました。
これらの研究の結果から、スラットでは、全周波数帯で総騒音低減量が最大7.3dB(図5,6)、主脚では5.5dB(図7,8)の騒音低減が見られ、低騒音化効果が十分であることを確認できました。




今後の展望
現在JAXAは、200~400人乗りの中型旅客機での実証を目指した連携体制をボーイング社とサフラン・ランディング・システムズ社と構築しました。JAXAが持つ、「飛翔」を用いた技術実証やリージョナルジェット機対象の研究開発で得られた知識に加え、ボーイング社とサフラン・ランディング・システムズ社が持つ、多くの旅客機開発経験を結集し、機体騒音低減技術の実用化に向けて取り組んでいきます。
