気象情報技術

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2020年6月22日
日本のRECAT導入を支えたJAXAの解析評価技術――RECATの詳しい解説も

近年の世界の航空旅客数は一貫して増え続けており、これにともない、空港を発着する旅客機の数も増加しています。そのため2020年代には、空港によっては、旅客機の発着需要が...[続く]

旅客機の後方に発生する渦状の乱気流を後方乱気流と呼んでいます。後方乱気流の影響を避けるため、大型機の場合には約2分間先行機との間を空けて離着陸を行っています。しかし、この運航方法では、将来予測されている航空輸送量の増大に対応できなくなるのは明らかです。
実際の後方乱気流は、風などの影響を受け移動・減衰するので、必ずしも2分も待つ必要はありません。気象状況を観測し、乱気流の状態を予測することで、航空機が安全に離着陸できる間隔を短くできます。
また、空港周辺に地形の起伏や建物があると、気流の変化によってウィンドシア※1や乱気流が発生することがあります。このような大気の乱れ(低層風擾乱)は低高度を飛行している航空機の運航に大きな影響を与え、着陸できずに欠航する事態も発生しています。事前に低層風擾乱の危険性をパイロットにアドバイスすることで、最適な着陸進入のタイミングを判断することが可能になります。
これらの技術により、空港容量の拡大と就航率の向上を期待できます。

※1: 大気中の2点間における風のベクトル差。シアは“ずれ”を意味する言葉。水平方向を水平シア、鉛直方向を鉛直シアと呼ぶ。

後方乱気流の予測に基づく航空機間隔短縮の概念図

低層風擾乱アドバイザリーシステム(LOTAS)

JAXAでは、従来より安価な気象観測センサーを使用し、着陸進入経路上の風の擾乱の状況や10分後の予測データを、パイロットや空港の運航支援者へ伝える「低層風擾乱アドバイザリーシステム(LOTAS: LOw-level Turbulence Advisory System)を開発しています。
パイロットに対しては、操縦席に設置されているACARSというテキストベースのデータリンク装置で着陸進入経路上の風擾乱の状況を伝えることができます。

ACARSテキスト情報

空港の運航支援者へは、高度ごとの風の状況や10分後の予測情報を示すことで、パイロットへの着陸指示の参考にすることができます。

レーダーエコー画面

風情報画面

これらの情報により着陸のタイミング判断を支援し、無駄な着陸復行(ゴーアラウンド)を減らすなどして、乱気流等局所的な風擾乱に備えることができ、より安全で高効率な運航を実現できます。

さらにLOTASの気象観測センサーの代わりに、既に一部の空港に設置されている空港気象ドップラーライダーやドップラーレーダーとLOTASの技術を組み合わせた「空港低層風情報(ALWIN: Airport Low-level Wind INformation)」の開発を、気象庁と共同で行いました。
ALWINは、2017年度から東京国際空港(羽田空港)、成田国際空港での実用運用が開始されています。

※空港気象ドップラーライダー: レーザー光によって大気中のエアロゾル(微粒子)の動きを検知することにより、低高度の非降水時の風を計測できる装置

空港低層風情報(ALWIN: Airport Low-level Wind INformation)

ALWINとは、航空機の着陸経路上における風の情報(風向・風速、ウィンドシアや乱気流など)を提供するサービスです。地上に設置された空港気象ドップラーレーダーおよびドップラーライダーなどの観測データから、ウィンドシアや空港周辺の地形、建築物の影響などによる乱気流を自動的に検出し、その情報を画像やテキストデータとして運航会社および航空機に送信します。音声通信による情報提供に比べ、風の状態変化をリアルタイムでより詳細かつ正確に把握できるため、より安全に着陸することが可能になります。

ALWIN情報を基にアプローチブリーフィング
(撮影協力:日本航空株式会社)

SOLWIN: SOdar-based Low-level Wind INformation

ALWINで培った情報提供システムと、株式会社ソニックが開発した音波を使ったリモートセンシング装置(ソーダー)を組み合わせた、低層風情報提供システムです。ソーダーは、天候に左右されず計測が可能で、レーダーやライダーに比べて価格を抑えることができます。SOLWINは、主に地方空港などへの導入(実用化)を目指して、実証データの蓄積、検証を進めています。

SOLWINがインターネット上で提供する風情報の例(風向・風速、上下風の現在の数値、グラフ(上部)や過去の履歴(下部)を表示)

鳥取空港に試験設置したSOLWIN用ソーダーの受信機(手前右の赤い BOX)と実験用航空機「飛翔」

JAXAが研究開発を行った、パイロットに気象情報を提供するシステムシステムは現在3つあります。

LOTAS/ALWIN/SOLWINの機能等を比較したもの
ALWIN LOTAS SOLWIN
機能
  • 事故や着陸復行などにつながりうる風変動を全天候で自動検知。
  • Web、ACARSなどの既存インフラを活用し、定量的・視覚的な風情報を任意のタイミングで航空機に提供。(航空機は改修の必要なし)
情報提供範囲 着陸経路上
高度1000ft以下
着陸経路上
高度500ft以下
センサー直上
高度300ft以下
提供する風情報 水平風(正対風、横風) 水平風(主に正対風)
(横風にも対応可能)
水平風(正対風、横風)
鉛直風
使用するセンサー 空港気象ドップラーレーダー
空港気象ドップラーライダー
小型ドップラーレーダー
小型ドップラーライダー
ドップラーソーダー
メリット 観測範囲が広い 500ft以下なら
ALWINと同機能
鉛直風が観測可能
低コスト
デメリット 空港の設備に依存 現時点で実用に供しうる
システムがない
観測範囲が狭い