気象情報技術

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2015年6月30日

羽田空港で空港低層風情報「ALWIN」の評価試験を実施

2015年3月に日本航空(JAL)の協力のもと、エアラインの運航管理者や運航乗務員が、羽田空港の運航現場で空港低層風情報「ALWIN(Airport Low-level Wind INformation)」をどのように使用しているか調査する評価試験を実施しました。
ALWINは、空港周辺や着陸経路上の風の状態を運航者に知らせる情報で、JAXAと気象庁が共同で開発しました。空港にいる運航管理者へはパソコンで、機内にいる運航乗務員へは操縦席に設置されているACARSというテキストベースのデータリンク装置で情報が提供されます。この評価試験結果は、ALWINの実運用時の仕様に反映される予定です。

運航乗務員の評価試験の様子


羽田空港にあるJALのオフィス。
運航乗務員は、このオフィスで運航に必要な天気の状況などを確認します。
今回は、評価試験のため、飛行前のブリーフィングから実際の運航まで乗務員の方とご一緒させて頂き、ALWINが運航でどのように使われているか確認し、生の意見をうかがいます。
羽田空港からの離陸に伴い、飛行経路上の風をALWINのウェブ画面で確認できます。もし、羽田の飛行経路上には、ウインドシアや強いガスト(突風)があると、ALWIN画面では発生している高度帯がアンバー色で塗られ、乗員の方に注意を喚起します。ALWINは、離陸前のブリーフィングにも活かすことができます。


今回は、羽田空港離陸-新千歳空港着陸、新千歳空港離陸-羽田空港着陸の便の機内に搭乗します。


離陸前に機内では、風の状況を確認するために、ALWINをACARS(※1)でアップリンクするためのファンクションをマウスで選択します。


新千歳空港を離陸して、羽田空港に向けて順調に飛行中です。降下を開始する前、羽田空港の風の状況を確認するためにALWINをリクエストします。
航空機の操縦で一番難しいのは着陸だといわれ、特に着陸の飛行経路上に風の急激な変化や乱気流があると操縦は一層難しくなります。離着陸時の低高度でこれらが発生すると重大な事故にも繋がりかねない危険な状態になります。羽田空港もハンガーウェーブ(※2)といって低高度で乱気流が発生する事象が多く見られたため、ALWINの羽田空港での実用化要望にも繋がりました。



ALWINのアップ(上)。
ACARSはテキスト情報しか送れないため飛行計器のようなグラフィック情報は出せません。
忙しい着陸進入フェーズ中に細かい文字情報を解読している余裕はないため、テキスト情報だけで一目で風の状況が理解できるように、画像に示すような情報となりました。
表示されているグラフは、500フィート以下の正対風を表しており、右側には正対風成分、風向・風速、横風成分の数値が並びます。
ALWINのプリントアウト(下)。
プリントアウトすると、1枚の紙で、正対風(上)、横風(下)のグラフを確認できます。ACARSでは送信可能な文字数が制限されているため、スペースの制約がある中、着陸進入に必須な情報のみに絞りました。


副操縦士がALWINを使って風の状況を説明し、機長はこの情報を考慮した着陸進入の計画を立てます。
アプローチブリーフィングにおいて風の状況について、乗員同士で共通の認識を持つことができます。


羽田空港の滑走路が見えてきました。
ランウェイ23(滑走路方位230度)に着陸します。



着陸後、ALWINの使い勝手に関するインタビューを行いました。ALWINによって、地上から500フィートまで大きな風の変化がないことを確認でき、ブリーフィングにおいて乗員同士で共通の認識を持つことができたとのことです。
オフィスに戻り、アンケート用紙にもご記入頂きました。
今日の風は厳しい状況ではありませんでしたが、アンケートでは、ALWINのACARS情報が「役立った」との回答。理由としては、「ファイナルの風が地上と大きく変わらないことが事前に確認できたから」でした。
インタビューでは特定の乗員の方からしかご意見を得られないため、アンケートで様々なご意見を集計し、気象庁とのALWIN実用化に向けた今後の改善に活かされる予定です。

※操縦室での撮影は、特別な許可を得て撮影しています。

運航管理者の評価試験の様子

羽田空港にあるJALのオペレーションコントロールセンター(JAL OCC)。
JALの国内線、国際線の運航を集中管理しているところです。
今回は、JAL OCCに勤務する運航管理者がALWINをどのように使っているかを見せてもらいます。



運航管理者卓は、国際線・国内線で分かれています。
画面の一つは、ALWINです。


ALWINの過去データ画面の例です。過去データだということを強調するために、画面の上に大きく「Past」と表示しています。これは2015年3月1日の20時35分頃の過去データですが、羽田空港(RJTT)において、顕著な風の変化があったことが分かります。過去データは、乗員の振り返りや後の解析にも使われ、ALWINの中で評判の高い機能の一つです。


ALWINでは、過去数時間の履歴も見ることができます。
この履歴情報は、一日の風向・風速やウインドシアの傾向把握、風向・風速の周期性の経験的知見を得てもらうことが目的です。


運航管理者へインタビューを行いました。
運航管理者は、現在の風の状況や、風がどの高度帯で変化するかなどの確認にALWINを使っているそうです。
JALでは、乗員のリクエストに応じて自動でALWINをアップリンクできるため、運航管理者の方がALWINを見てコックピットにアドバイスすることは、ほとんどありません。ただ、風の状況を見て、着陸復行が出そうな風の状況かどうかなどの状況認識向上には役立ちそうです。

※1: ACARS(Automatic Communications Addressing and Reporting System)
空地デジタル・データ・リンクシステムとして、必要な運航情報をARINCの通信網を介して航空機側から地上へ、または地上から航空機側へ自動的に提供するシステム
※2: ハンガーウェーブ
北東や東の風が強い時に、羽田空港南側の新整備地区にある格納庫(ハンガー)を越えることで乱気流が起こる現象と考えられ、格納庫西側のA滑走路(34L)の発着機に影響を与える。