COLUMNコラム

2021.6.2

航空機開発、機械学習を活⽤

バフェット予測

航空分野においても機械学習によるデータ活⽤が試みられている。それにより開発コストの⼤幅な削減や、実験や数値解析のデータからより深い洞察を得ることなどが期待されている。宇宙航空研究開発機構(JAXA)でもさまざまな機械学習関連の研究を進めているが、ここでは⼆つの研究例を簡単に紹介したい。

航空機開発の⾼速化・低コスト化を⽬指し、機械学習を利⽤した予測モデルの構築による解析の⾼速化が盛んに研究されている。例えばJAXAでは、バフェットと呼ばれる流体現象の予測⼿法を研究している。

バフェットは航空機が安定⾶⾏できる速度などを律速する重要な現象だが、設計段階でその発⽣を予測するには⼤規模な数値解析や⾵洞実験を必要とする。そこでJAXAでは、短時間で計算可能な⼩規模の数値解析のみでバフェット現象の予測を可能とする解析ツールを開発している。

これは、バフェットの発⽣と⼩規模な数値解析の結果の間に対応関係があることによる。すなわち、それらの間の関係を機械学習でモデル化することにより、⾼速なバフェット予測を⽬指している。

また、得られた予測モデルの性質を詳しく解析することで、バフェット現象そのものの物理的性質への知⾒も深まると考えている。得られた知⾒はより効果的にバフェット現象の発⽣を防ぐ航空機の開発へ役⽴つことが期待される。

有益情報抽出

機械学習の時代が到来したことにより、実験や数値解析のデータからより有益な情報を抽出することの重要性も再認識されてきた。特に航空機周りの流れ場は時間変化も空間分布も複雑に振る舞うため、データから有益な情報を知識として抽出することは容易ではない。

そのような背景のもと、JAXAでは流体データの解釈を容易にする⼿段の⼀つとして、モード分解に基づくデータ解析ソフトFBasisを開発している。FBasisでは時系列データに内在する⽀配現象の空間分布と時間変化を抽出することができる。

例えば、多くの航空機の主翼形状である後退翼周りの流れ場解析では、よく知られるバフェット現象だけでなく、特徴的な空間パターンが翼幅⽅向に伝播する現象も⽀配現象として抽出された。後者の現象はこれまでの研究でも知られていたものの、本解析では、その3次元的な空間分布と動的な振る舞いを初めてモードとして抽出することに成功した。

また、本ツールは航空分野以外のデータにも利⽤できる。ファンの騒⾳源特定などの⽤途では、⺠間でも活⽤の試みがすでに始まっている。

後退翼周りの流れ場から支配現象の流体構造を抽出した例

後退翼周りの流れ場から支配現象の流体構造を抽出した例

※本コラムは2021年3月時点の情報となります。

専⾨は圧縮性流体の数値シミュレーション、データ解析、モデリング技術。データ解析ツールFBasisを開発。複雑に時空間変化する流体現象の本質を理解し、モデル化する技術に興味がある。

航空技術部⾨ 数値解析技術研究ユニット 研究開発員
⼤道勇哉

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