COLUMNコラム

2022.6.13

航空機の圧力分布 感圧塗料で高解像度解析

風洞試験

航空機開発では、実際の航空機が飛行するまでにマッハ数を合わせた気流の中で縮尺模型を使って行う風洞試験は欠かすことのできない重要な機体性能予測ツールである。機体の揚力や燃費に関わる抵抗、あるいはラダーやエルロン効きの予測といった空気力に関わる性能に加え、主翼や尾翼上の圧力分布も構造強度の基礎データや流れ場の評価データとして重視される。

圧力分布であるが、通常は縮尺模型の表面に圧力孔と呼ばれる直径0.5mm程度の微少孔を設け、そこから直径1mm程度のチューブを圧力センサーまで繋ぐことで計測される。圧力分布も細かく分布を見るのがベターであるが、圧力センサーの計測可能点数の制約のほか、縮尺模型ではこのチューブの体積が大きな制約となる。

1例として全幅1mの模型で考えると、模型全体で300点の圧力を計測しようとするなら、模型胴体はほぼ圧力用チューブで埋め尽くされる。300点とはいえ、主翼や尾翼、胴体の上面・下面まで分布させると詳細圧力分布というにはやや心もとない密度となる。

感圧塗料(Pressure-Sensitive Paint; PSP)は酸素圧によって発光量が変化する発光塗料である。紫色のレーザーやLEDで照射すると赤色に発光するが、圧力に反応するこの赤色発光をCCDやCMOSカメラで計測することで圧力に換算することができる。航空機模型の全面にピンク色のPSPを塗装し、周囲の風洞壁にカメラやLEDを複数系統設置すればほぼ模型全体にわたる圧力分布を数十万ピクセルの解像度で捉えることができる。

非定常現象

近年では高速度カメラの性能が飛躍的に向上し、PSP発光を高速度カメラで計測すれば数キロヘルツで圧力変動する非定常現象の計測も可能となっている。航空機の開発では、通常の巡航や離着陸での性能以外にも、広範な飛行条件で安全に飛行できることを確認しておかねばならないが、そのような飛行可能境界領域では様々な非定常現象が発生する。PSPを使うことで、危険な非定常現象が機体のどこで発生するかをカメラの解像度で把握することが可能となっている。

改良とDX連携

しかし、PSP計測もまだまだ改良が必要な技術である。一つには、発光量という一つの情報量に圧力だけでなく温度も関係することである。赤外線カメラデータを使っての温度補正を試みたり、化学系研究者との共同研究で温度感度の小さいPSP塗料用ポリマーを合成したり、試行錯誤を続けている。

航空機開発のデジタル変革(DX)を目指した数値シミュレーションと相互比較も推進しており、高解像度かつ非定常現象も網羅可能なPSP計測はこの面でも有用な技術となっている。

巡航条件での航空機模型のPSP圧力計測。
主翼前縁の衝撃波位置もはっきりと計測できている。

© JAXA

※本コラムは2021年12月時点の情報となります。

94年航空宇宙技術研究所⼊所、05~06年米スタンフォード大学客員研究員。21年より現職。00年から感圧塗料技術の開発に従事、風洞だけでなく、実験用航空機での感圧塗料計測も進めている。

航空技術部門 航空環境適合イノベーションハブ 企画連携チーム長
中北和之

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