早く超音速旅客機を実現させたいね!

JAXAメールマガジン第197号(2013年5月7日発行発行)
本田雅久

こんにちは。D-SENDプロジェクトチームの本田雅久です。私は、以前はロケットを製造するメーカに勤めていました。当時の設計対象のスピードは、最も速いもので音の40倍(マッハ40)。猛烈な空気の圧力と高温の世界が相手でしたが、JAXAに来てからは対象が飛行機に変わり、マッハ2で飛行する超音速機の研究をしています。

飛行機の研究をする方法には、スーパーコンピュータを使った複雑な計算や、相似模型を使った風洞試験等が有りますが、計算や模型試験だけでは解明できないこともあります。そこで登場するのが、実際に飛行機を飛ばしてみて様々な性能を確認する飛行実験です。
JAXAは、飛行実験のための実験用航空機を持っていますが、残念ながら超音速飛行はできません。超音速機の飛行実験を行うには、新たに超音速機を開発する必要があります。人が乗れる機体を開発すると安全確保のために膨大な時間と費用がかかるため、無人の超音速機を開発することになります。無人と言っても、超音速で飛ぶのですからラジコンという訳には行きません。機体に搭載されたコンピュータが自分で考えながらミッションを遂行する自律型の無人超音速機です。

超音速機の飛行実験計画で一番問題になるのが、実験場所です。超音速機がマッハ2で飛んでいるとすると、1分間に約20km飛びます。超音速の速度になるまでの距離もカウントすると、すぐ数十kmの距離になってしまいます。また実験ですから、飛行が失敗した場合の安全距離も確保する必要があります。結局50km~100km程度の距離がないと超音速の飛行実験はできません。
この様な広大な実験場は、日本の様な狭い国土では望むべくもなく、海外に求めるしかありません。2005年の小型超音速実験機(NEXST-1)プロジェクトでは、オーストラリアのウーメラ実験場が利用されました。どこまでも続く褐色の大地は、日本の本州の半分以上の広さがあります。はやぶさが帰還した場所でも有名です。また、現在進行中のD-SENDプロジェクトは、スウェーデンの北極圏内にあるエスレンジ実験場で行われます。少々小ぶりですが、それでも100km×70km程度の広さです。

外国での実験の場合、実験場へ行くのも一苦労です。実験場は大体へき地にありますからアクセスは非常に悪く、ウーメラもエスレンジも日本から飛行機を3回乗継ぐ、まる2日間の長旅です。スウェーデンだと日本からの直行便すらありません。例えると、ヨーロッパを出発し、韓国で乗り継ぎ、東京に飛んで、更に札幌まで飛ぶと言ったイメージでしょうか。これまで、D-SENDプロジェクトの調整だけでも12回スウェーデンに出かけています。合計約300時間。スウェーデンに向かう飛行機の中で、いつも同僚につぶやいてしまいます。「早く超音速旅客機を実現させたいね!」。

そのためには、まず今年夏にスウェーデンで実施するD-SENDプロジェクト第2フェーズ試験の成功です。皆さん、応援よろしくお願いします。