発電と航空エンジンの関わり

メールマガジン第198号(2013年5月20日発行)
鈴木和雄

JAXAメールマガジン第189号に続きまして、航空エンジンの話をします。
東日本大震災に伴う原発事故により、火力発電への依存が増しているため、高効率な火力発電システムが求められていますが、航空機用ファンエンジンと作動原理が同じガスタービンを用いた発電システムが期待されています。
ファンエンジンは、タービンによりファンを回転させて推力を出し、発電用ガスタービンは発電機を回します。地上で用いる発電用ガスタービンは制約が少ないので、いろいろな工夫が適用できます。
その中で、高効率で大規模な発電を可能にするシステムに、ガスタービンで発電した後、その排気で蒸気を作り蒸気タービンを回して発電する複合発電があり、CO2排出が少なく、NOxの排出が少ないなど環境性能もすぐれています。我が国でもすぐれたこのシステムを商用化しています。
複合発電の総合効率を一層高めるために、ガスタービンの性能向上を目指した『高効率ガスタービン』の研究開発が、省エネルギー技術開発『ムーンライト計画』の一環として1978年にスタートしました。JAXA(当時の航空宇宙技術研究所(NAL))はこの研究開発に参加しました。このガスタービンは、中間冷却器と再熱燃焼器を用いた画期的なシステムで、作動条件は50気圧1300℃と設定され、当時のガスタービンの技術水準をはるかに上回るものでした。

私の所属していた燃焼グループは50気圧の高圧燃焼器の開発を行いました。燃焼圧力が高くなると、体積あたりの発熱量、火炎からの輻射量、NOxの発生などが増加し、実圧条件での燃焼試験によるデータ取得が必要で、50気圧の連続燃焼試験設備が不可欠でしたが、このような試験設備は世界中になく、設備整備自体も研究でした。
この設備の完成により、高圧燃焼器の開発や高圧下でのNOx低減などの研究が進み良い成果を出すことができました。さらに超音速機用エンジンのラム燃焼器の開発、タービンの耐熱材料評価など広く利用されてきました。またプロジェクトはもとより、国内外の共同研究や、民間企業の開発にも使用されました。

その後航空エンジンの作動条件は高圧化が進みましたが、現在の最新鋭の航空用ファンエンジンでも40気圧を少し超えたところであり、30年前に整備したこの設備の先進性がおわかりいただけると思います。発電用ガスタービンの開発プロジェクトに参加したことが、その後の航空エンジンの開発に非常に役に立っています。