フは風洞のフ

JAXAメールマガジン第219号(2014年4月21日発行)
上野真

風洞技術開発センターの上野 真です。初めまして。40歳です。40歳なんて永遠にならないかと思ってたら、なっちゃうもんですね。辞書で「初老」の意味を引いたら、「40歳の異称」と出てきたときには衝撃でした。

さて、私は風洞試験で得られた空力データを効果的に活用する方法を研究しています。自己紹介、サラッと言ってみましたが、この文章の意味は通じましたでしょうか? かつて、池波正太郎はエッセイ「男の作法」(新潮文庫刊)の中で述べています。『鮨屋へ言った時はシャリだなんて言わないで普通に「ゴハン」と言えばいいんですよ。』これは、半可通を戒めた言葉ですけど、サラッと流れてくる用語を分かったふりをせずに普段使っている言葉に言い換えてみることで、本質が見えてくることがあります。今日は最初の私の自己紹介から、飛行機の本質に迫ってみましょう。
風洞って何でしょう? 空力データってなんでしょう? もしかしたら、言葉だけなら聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。自動車の開発でも風洞を使うので、モータースポーツ好きの方は聞いたことがあるかもしれません。でも、それが何なのかをご自分の言葉で説明できる方は少ないんじゃないでしょうか。

風洞は風の洞穴(ほらあな)と書いて風洞な訳ですが、文字通り風を作る装置です。また、風を流すのは多くは筒の中です。JAXAにあるような大きな風洞の場合、この筒の中にいると本当に洞窟の中にいるような気分になります。
さて、では、なぜ風洞なんて装置を使うんでしょうか? この風洞という装置は飛行機が飛ぶ時に飛行機の周りに出来ているのと同じか、それ以上の速さの風、すなわち空気の流れを作ることが出来ます。なんで、そんなものが必要なんでしょうね?
答えはですね。飛行機が空気の力「だけ」で浮かんだり、方向を変えたりしているからです。他に何も使ってないんだから、「飛行機に空気がどんな力をどれだけ加えているのか」を知ることが一番大事なんです。ここ、大事ですのでもう一回言います。テストに出ますよ(ウソ)。飛行機は「空気の力だけで飛んでいる」んです。
このような空気の作用や物体への影響を扱う学問を空気力学と言いますが、空気力学的データ、略して空力データは飛行機に関して取得されるデータの中でも最も重要なものの一つであるということが分かります。そして、空力データを得るためには、飛行機が飛んでいるときに飛行機の周りに実際にできている空気の流れと同等の流れを作り出すことが必要です。そのために風洞という装置を使っているのです。

というわけで、自己紹介の文章を普通の言葉に言い換えてみましょう。「私は飛行機の周りの空気の流れを再現する装置(風洞)を使って得られた、飛行機に働く空気の力に関するデータを効果的に活用する方法を研究しています。」え? 最後の部分サボっただろうって? なんで、分かったのよ!? うーむ。では、「効果的に活用する」って、何やってるんでしょうね? その辺は次回!