モルフィング飛行機

JAXAメールマガジン第249号(2015年8月5日発行)
中道二郎

最近、航空の世界でモルフィング(Morphing)という言葉をよく耳にする。モルフィングとは「映像処理技術の一つで、片方の画像からもう一方の画像へ滑らかに変化させること」(研究社 コンピュータ用語辞典)とある。

飛行機はフライト中、離陸、上昇、巡航、下降、着陸のフェーズで運航する。飛行機はそのフェーズごとに自分の姿を変えて飛ぶ。離陸、着陸のフェーズでは脚を出し、フラップ、スラットを展開して翼面積を大きくして飛ぶ。巡航時ではいわゆる飛行機の形をとる。フラップ等を機械的にその位置関係、配置を変えて形態を変更している。

1903年のライト兄弟のフライヤー号では、主翼のたわみを利用したねじれによる空力荷重分布の制御、操縦者の姿勢の変化による重心移動で横方向制御、安定性を確保したとされている。積極的な技術的発想とは考え難いが、たわみを利用するところが近代航空技術でいうモルフィングである。特に離着陸時の前縁スラット、後縁フラップなどシームレスに駆動可能とし、主翼の形状を鳥がそうすると同様に飛行中にその形状、形態を最適な形状、形態を選択し、実現しようとするものである。
航空機の発展はその後“残念なことに”、主翼剛性を確保することに努力が注がれ、操縦系統としては、1910年頃には既に3舵面(フラップ/エルロン、ラダー、エレベータ)を用いる現在の方式の基本が確立されている。

“なぜ今になってモルフィングか?”
多分野の総合技術ではあるが、分野別の目標として考える場合には、例えば空力抵抗低減、騒音低減、製造上の部品点数の低減など諸々の性能の改善、低コスト化が期待できる。総合的には、フラップなどの高揚力装置のスマート化も含め、航空機の構造重量増を伴わず、広範囲な飛行速度域で、それぞれの条件下で飛行特性の最適化ないしは改善が期待できる。

航空機のモルフィング形態を可能にする材料、構造、および機構に関する研究が盛んに行われている。最新鋭のB787の離陸時などの姿を見ると主翼は離陸して直後、大きく上方にたわむ。主翼は複合材でできていて、大ひずみ、大変形に耐えられる。金属翼ではこれはできない。この変形を積極的に利用すれば性能は大きく改善される。飛行機はその安全性を確保することが絶対の乗り物であるが故に発展も徐々にでしかないが、モルフィングの発想での飛行機の新たな進化が既に始まっているように思う。大型の鳥のように飛行フェーズに合わせて自分の姿、姿勢を自在に変える、モルフィング飛行機が近い将来現れることを期待する。